釣った魚を自分で調理してたべるということ。
最初は誰しも不安があるはず。素人が勝手に調理したら食中毒になるんじゃないか?
一方でお店で売ってる魚なら大丈夫という感覚があるかもしれません。でも釣った魚とお店で売ってる魚で食中毒のリスクに差はあるのでしょうか?
三枚おろしなどの調理を一切せず内臓がついたままの丸の魚でも、店先にパック詰めされて陳列してあればそれだけで感じる安心感。その感覚はなんとなく分かります。しかし端的に言えば海で獲れた魚をトレーに置いてラップをかけたもの。釣った魚と大差ない。
釣った魚とお店で買った魚。入手方法はどうであれ食中毒のリスクはそれ相応にあります。これはもう知識を付けて自衛するしかありません。生ものの調理とはそういうもの。
釣った魚、とりわけ海水魚を食べるにおいて食中毒の原因となりえること、そしてその対策をまとめます。しっかり知識を付けて適切な処理さえすれば食中毒は高確率で防ぐことができます。
「火を通したら問題ない」は問題あり
釣った魚で起こる可能性がある食中毒。代表的な原因は以下の3つ。
- 腸炎ビブリオ
- ヒスタミン
- アニサキスなどの寄生虫
もちろんフグを食べたら毒にあたるし、一見毒を持ってそうにない魚でもシガテラ毒を持っている可能性があります。それらは常識的なことであったり比較的レアケースだったりするので、ここでは省略して身近に起こりやすい上記3つに絞ります。
3つそれぞれに有効な対策も異なります。
それらが混同されて一人歩きした結果、食中毒に対して「火を通せば大丈夫」もしくは「冷凍したら大丈夫」と認識されていることがあります。
でもその認識のほとんどは「間違い」です。原因よって対策は異なるのです。具体的なことを書いていく前にまずそこを説明しておきます。
加熱は食中毒対策として万能ではない
日本の大衆食文化には「腐ったり傷んだりした食べ物であっても火を通せば大丈夫」という通説や思い込みがあります。
確かにウイルスだろうが菌だろうが、火を通せば「ギャーアツイー!タスケテー!」と焼け死んでいくようなイメージが浮かばないこともない。それは分かる。確かに菌やウイルスの多くは熱で死ぬ。だから安全かというとそんなに単純なものではありません。
それは冷凍とて同じ。火を通したり凍らせたりが有効な場合もあれば、全く意味を成さない場合もあり得ます。
腸炎ビブリオの毒素は熱で消えない
後ほど詳しく説明しますが、海産物に付着している可能性がある腸炎ビブリオという細菌。この細菌そのものは加熱することで死滅します。
ですが細菌が分泌する毒素は熱に強く、加熱でその毒性は消えません。冷凍してもダメです。その毒素を摂取してしまうと腸管に作用して下痢をもたらしたり、場合によっては心臓の筋肉細胞を破壊するという恐ろしい結末をもたらします。
一方で冷凍で菌が死ぬという認識も通用しない可能性があります。ビブリオを含め、短期間の冷凍程度で菌やウイルスは死滅しません。
人間の傷口経由で食品に移る黄色ブドウ球菌、常温で保管されたカレーなどで増えるウェルシュ菌、いずれも菌自体は熱で死んでも毒素は簡単に消えず食中毒の原因となります。手を切ったら素手での調理は避ける、夏場のカレーは冷蔵庫での保管徹底を!
ヒスタミンは熱で消えない
こちらも後ほど詳しく書きますが、サバを筆頭とする青魚系で発生しやすいヒスタミン食中毒。鮮度が落ちた魚のヒスタミンでブツブツができたり吐き気がしたり。
残念ながら一度生成されてしまったヒスタミンは加熱で消えません。
経験上、年配の人にほど「加熱したら平気」という意識が根強く残っているように思います。結果として傷んだサバを食べたらブツブツができたって経験をした人はけっこう多いんじゃないでしょうか?
ほとんどの場合サバ自身は悪くない。調理前段階で魚の扱い方が悪かった可能性が高い。つまり鮮度が落ちていたということ。
そしてやはり、冷凍してもヒスタミンは消えません。ですがヒスタミンが発生する前の新鮮な状態であれば冷凍するなどして冷やすことは有効な予防方法です。
傷んだ魚は捨てるべき
原因が腸炎ビブリオにしろヒスタミンにしろ、既に傷んでしまった魚は煮ても焼いても揚げても、そしてカチンコチンに冷凍しても食中毒の原因が取り除けません。
傷んだ魚は不味いだけではなく食中毒のリスクが高い食材であることを認識し、潔く処分するようにしましょう。もちろんそうしないために適切な温度管理などをすることが大前提です。
魚は新鮮なうちに適切な処理をすれば食中毒のリスクが下がる
例えば鶏を生で食べる場合「新鮮だから安全」という認識は完全に間違っています。
カンピロバクターなどの原因菌がいる消化管を傷つけないなど、食中毒を最大限回避する丁寧な処理が食肉加工時になされていないといくら新鮮であろうが危険だといえます。新鮮であればあるほどリスクがあるというとらえかたもできます。
生鶏を提供すること自体がグレーゾーンじゃないかという側面もありますが、もし新鮮さを売りに鶏刺しを提供している店があれば疑ってかかりましょう。
一方で魚の場合は新鮮であればあるほど食中毒のリスクを下げられる可能性があります。決してゼロにはならないけど。
新鮮な状態で適切な処理をすれば腸炎ビブリオの増殖が抑制できます。ヒスタミンも同様。アニサキスについては諸説あり断言が難しいのですが、一般的には鮮度が落ちると内臓から身に移動すると言われており、その前提でいうと新鮮なうちに内臓を取り除けばリスクを下げることができます。
釣った魚を食べて食中毒になる3つの原因
それでは魚の食中毒について具体的に解説していきます。
釣った魚、あるいは売られている魚や飲食店で提供された魚で食中毒になる主な原因は以下の3つ。まずこれを覚えましょう。
- 腸炎ビブリオによる食中毒
- 主に青魚が原因になるヒスタミン中毒
- アニサキスなどの寄生虫による食中毒
これ以外の要因で食中毒になることもありますが、この3つが身近で代表的なものです。それぞれを詳しく見てきましょう。
海水にいる腸炎ビブリオに気をつける

(出典:腸炎ビブリオ – Wikipedia)
夏場の海水魚は腸炎ビブリオによる食中毒に注意
魚に表皮に付着している細菌というのは何種類もいるようですが、海で釣った魚を食べるにおいて特に注意しなければいけないのが「腸炎ビブリオ」です。3~4%の濃度を持つ塩水、つまりは海水を好む細菌。海水中には当たり前にいるものと認識したほうがいいでしょう。
かつて重大な集団食中毒事件を引き起こしたO-157などと比べると、食中毒の原因としてほとんど認知されていないと思います。私も釣りをするまで知りませんでした。
実際、2000年代以降はビブリオによる食中毒発生件数が顕著に減っているようで、知らなくても当然かと思います。
輸送技術や冷蔵技術の向上が貢献しているのでしょう。
しかし、古いニュースを調べると、これが原因の集団食中毒がときおり発生しているのが分かります。
海水が15℃以上になると活発に活動しだし、暑い夏の時期に最も多く食中毒が発生します。症状としては激しい腹痛、嘔吐、下痢、発熱など。いかにも食中毒といった症状。
【ビブリオ対策】真水で表皮をしっかり洗い流す
腸炎ビブリオは真水、酸、熱に弱く、基本的な対処法は表皮を「水道水」でしっかり洗うこと。これ大事。
たいがいの魚レシピ本ではまず始めに魚を水で洗う工程から始まりますが、食中毒予防と臭み取りという点でそれは利にかなってます。
高度に処理された日本の水道水は安全であり、この水道水を誰でも安価で使えるということが魚の生食文化に大きく貢献しているはず。
魚の身が真水に触れると味が落ちるからといって極力水を使わないような調理工程を紹介している人もいます。でも食を楽しめるのはその安全が保証されてこそ。内蔵を抜いて3枚におろす直前まではジャブジャブと水道水を使いましょう。
この「魚を洗う」ということについて、腸炎ビブリオによるとある集団食中毒の記事に以下のような表現があります。(※現在記事は削除されているようです)
県薬事衛生課によると、2日に加賀屋で夕食を食べた24~87歳の宿泊客15人が下痢や嘔吐(おうと)などの症状を訴えた。同課は腸炎ビブリオが原因と断定し、夕食で出た刺し身の洗い方が不十分だった可能性があるとみている。
(出典:高級旅館で宿泊者15人食中毒=和倉温泉「加賀屋」-石川:時事ドットコム)
魚の食中毒について知らない人がこの記事を読むとこう受け取るかもしれません。

刺し身って切った後に洗うものなのか!なるほど”スズキの洗い”って食中毒予防のテクニックなんだね!
刺身用に切り出した身を水で洗ったら旨みも落ちるので普通は洗いません。記事の内容としては捌く前に表皮を洗うのが不十分だったことを言いたいのだと思われます。
刺し身でいうところの”洗い”は、氷水で締めて身の弾力を強くしたり、余計な脂を落とすのが目的。食中毒対策とは無関係です。
【ビブリオ対策】調理までなるべく冷やして鮮度を保つ
ビブリオはある程度の温度以上で活発になり増殖も進んでいくので、釣った魚は釣った直後から調理するまできちんと冷やすことを心がけましょう。
釣り場で釣ったらただちに冷たいクーラーボックスに入れるのはもちろん、暑い時期は調理中もなるべく常温で置いたままにしないこと。処理中でもこまめに冷蔵庫に入れる。さもないと時間ごとに倍々に増えていくぞ!のび太がバイバインで増やした栗まんじゅうみたいにな!(参考:栗まんじゅう問題 – アンサイクロペディア)
真水以外にも、ビブリオは熱にも弱いということになっています。それなら火を通せば問題なしかといえばそうでもなく、傷みが進行してビブリオ菌が毒素を分泌する状態になっていればもうアウト。煮ても焼いてもアウト。「心臓の筋肉細胞を破壊する」という中二男子が考えたような闇の追加属性もゲット。
じゃあ凍らせればええやんと思うじゃないですか?
繰り返しますが、大概の菌は凍結しても死滅しない。それはむしろ冷凍保存で冬眠させ生きながらえさせるようなもの。
ビブリオの二次汚染にも気をつける
しっかり真水で洗ったから魚の腸炎ビブリオは除去できたはず。これで問題なし!いっちょ刺身にでもして生で食ってやるか!
いや、ちょっと待った!
もしかして真水で洗う前に魚をまな板に置いたりしてなかった?そしてそのまな板は洗った?まな板を洗わないままツマにする野菜とか切ってない?
生き物の細胞内でしか増殖できないコロナのようなウイルスとは違い、細菌は水分と養分があれば生き物を離れても元気に増殖できます。濡れて汚れたまな板なんて細菌にとってはパラダイス。
せっかく魚の表面にいる細菌は除去できたのに、汚れたまな板を使えばその魚の身にまた細菌を戻すようなもの。また、野菜など他の食材に移って二次汚染を起こしてしまったら台無しです。面倒ですが、生の魚に触れたまな板や包丁は工程ごとに洗ってから次の調理にかかりましょう。水でサッと流すだけでもだいぶ違うはずです。
食中毒対策だけではなく、魚が生臭くなるのを避けて美味しく食べるためにも、こまめなまな板洗浄は重要です。自分が刺身を作るといつも生臭くなるって人、ちゃんとまな板を洗ってますか?
鶏の生肉なんかもカンピロバクターの二次汚染をよく聞くので気を付けましょう。
青魚に多い「ヒスタミン」に気をつける

(出典:ヒスタミン – Wikipedia)
鮮度落ちが原因でヒスタミンがヒスチジンに変わる
サバやカツオなどの青魚に多く含まれる成分として「ヒスチジン」というものがあります。
これ自体は無害であり、むしろ必須アミノ酸のひとつとされるものでサプリとして売られているほど。
しかし時間が経って内臓が傷むなどすると、魚の内臓やエラにいるヒスタミン産生菌の酵素によってヒスチジンが「ヒスタミン」に変わってしまい、食物アレルギーに似た「アレルギー様食中毒」を引き起こします。そうなるとブツブツと発疹ができたり吐き気がしたり熱が出たりという症状が。
「サバの生き腐れ」という言葉があるように、サバに代表される青魚はヒスチジンを多く含みそのせいでヒスタミンが生成されやすい。
先ほども書きましたが、このヒスタミンは熱で無効にすることができません。よって一旦ヒスタミンができてしまうと煮ても焼いても揚げても手遅れです。捨てるしかない。市販の加工食品でも処理が悪いとヒスタミンが含まれる可能性があります。
【ヒスタミン対策】冷やして鮮度保持をこころがける
ヒスタミン産生菌の酵素によってヒスチジンがヒスタミンに変わる。
この働きを遅らせるには冷やして鮮度を保つことが重要です。釣れた魚はなるべく早くキンキンに冷やしたクーラーボックスに入れて保管しましょう。暑い時期、死んだ魚をバケツに放置するとかもってのほかです。リスクがどうとか以前に出来るだけ美味しく食べるためにも避けるべき。
【ヒスタミン対策】血抜きやワタ抜きをして鮮度を保つ
ヒスタミン産生菌が多く含まれるのは内臓やエラ。だから釣り場でそれら抜き取る処理をしてしまうのもひとつの手です。これをすることで鮮度維持に大きな差がでます。
例えば私は、30センチを超えるような大きめのサバが釣れたら直ちにエラを切り海水に漬けて血抜きをします。一通り血が抜けたらキッチンバサミでエラとお腹を切って内臓を取り出し、中骨の下にある血合いも指で掻き出します。それからクーラーに入れて急速に冷やします。
幸いにして私自身は経験していませんが、高濃度のヒスタミンを摂取しようとした際、唇や舌にピリピリとした刺激を感じることがあるそうです。このことを覚えておけば、万が一処理に問題があっても食べる直前に気づいて回避できるかもしれません。
寄生虫「アニサキス」に気をつける
(出典:アニサキス – Wikipedia)
淡水海水に関わらず寄生虫はいる
「魚を生で食べるのは危険」ってことで真っ先に連想されるのが寄生虫じゃないでしょうか?寄生虫って言葉やその存在自体に嫌悪感があるでしょうから。
「淡水魚は寄生虫がいるから刺身で食べられない」ってのもよく聞く話ですが、寄生虫がいるのは海水魚も同じこと。天然の魚であればどちらも同じぐらいの割合で寄生虫がいるはずです。
淡水魚には、肝吸虫、肺吸虫、顎口虫など、人間にとって危険な寄生虫がついていることがあります。皮膚の下を這い回って脳や眼球に進入するとか、おおよそ魚の寄生虫に抱いているおぞましいイメージは淡水魚の寄生虫によるものが多いです。
海水魚の寄生虫は害がないものがほとんどだけど
一方で海水魚はウオノエとかウオノコバンとか、大きいため簡単に目視できて見た目のインパクトも大きい寄生虫も多いです。しかしほとんどの場合に人間に悪さはしません。ウオノエなんてシャコとか甲殻類の親戚みたいなもんだし、なんなら食えないこともない。
そんな海水魚の寄生虫ですが、とりわけ気をつけなければいけないのが「アニサキス」。
サバやサゴシなどの青魚類、スルメイカなどのイカ類に多い寄生虫です。芸能人がこれで食中毒になったというニュースがたまに流れるので、ご存知の方も多いのではないでしょうか。
胃壁に潜り込んで激痛をもたらすアニサキス
アニサキスは寄生虫だからといって人間には寄生することは出来ません。
生きたまま食べてしまったとしても放っておいたら数日内に死滅します。しかしこの「寄生できない」ことが人間に害を及ぼすこととなります。寄生して宿主を利用するなら、”その時”が来るまでおとなしく潜伏するほうが都合良いですもんね。
人間の体内というアニサキスにとっては過酷な環境に放り込まれると苦しみのた打ち回るようで、そのどさくさで胃壁などに潜り込もうとすることがあるようです。実際胃壁を突き破るということまでには至りませんが、こうなるとめっちゃ痛い!らしい。幸いにしてまだ体験していないので”らしい”なんですが、そりゃあもう痛いそうです。
なおこの痛みはアニサキスが胃に潜り込んで突き刺すという物理攻撃というより、アニサキスが分泌するアレルゲンが胃壁と反応することによるアレルギー反応の痛みらしいということが分かっています。
そうなってしまうと対処法は胃カメラで摘出するか、死滅するまで痛みを我慢するか。どっちにしろ苦しそう。胃を通り過ぎて腸までいって症状が出た場合は腸閉塞を起こす場合があり、その場合は命に関わる事態になりかねないため外科手術となるケースもあるようです。
寄生虫対策は確実に火を通すこと
アニサキスをはじめとした寄生虫への対処はシンプル。火を通すこと。
火を通せば死ぬから煮るなり焼くなり揚げるなりして熱を通せば大丈夫です。所詮やつらはタンパク質で構成された生き物。熱を加えればそれが固まってジエンド。死んでも口に入るから嫌?気にするな。
ただ、寄生虫の中でもアニサキス自体が食物アレルギーの原因になるということもあるらしく、これは熱を通しても防げません。食物アレルギーの原因になるアレルゲンもまたタンパク質だから。
こちらはアニサキスアレルギーになってしまった方の記事です。
レアケースかもしれませんが、こういうこともあるというのは覚えておく必要があります。
しかしこれを恐れて魚を食べないという選択をするなら、アレルギーの原因としてもっとポピュラーな卵や小麦、甲殻類も食べるべきではないということになる。
魚に限らず食べ物を食べる以上は多少なりともリスクを受け入れる必要があると思います。例えば餅は喉に詰まりやすいし、小麦や卵のアレルギーなんて思いのほか多くの人が苦しんでいます。しかし目の前の「美味しさ」と「リスク」を天秤にかけた結果として美味しさを選ぶ。それ自体は自然なこと。
でもリスクはリスクとして知っておいた方が、もしものときの助けになるはずです。
酢や醤油ぐらいでは死なない
誤解されがちなんですが、塩や酢や醤油やわさび程度のものでは退治できませんのでご注意を。しめ鯖という調理法は酢でアニサキスを退治できるように思われるかもしれませんが、酢程度で死滅させるのは無理。
このように意外と屈強なアニサキスですが、しっかりと冷凍すればさすがに死滅します。ですがその基準はマイナス20℃で24時間以上冷凍するというもの。家庭用冷凍庫の標準設定ではやや物足りない基準なので、温度調整できる冷凍であればなるべく強い設定で24時間以上、できれば数日間しっかり冷凍しておく必要があります。そうなると刺身としての食味が落ちてしまうので悩ましいところ。
また「よく噛んで食べればいい」という話も聞きますが、どうも眉唾っぽい感じです。細さ1ミリにも満たないアニサキスをかみ切るには人間の歯はすき間が多すぎます。まあ噛み切れなくともダメージを与えておけば、その後胃の中で悪さをするほど長生き出来ないと思いますが、相手は寄生虫なのでなんともいえません。
目視して取り除くということもできますが、見慣れていないと判別が難しいと思いますし、身の奥に潜り込んでいてはどうしようもありません。
ここ最近になってSNSで広まるようになりましたが、正露丸の成分がアニサキスの運動を抑制する効果があるということになっています。飲めば退治できるという絶対的な効果があるかというと正直期待しない方がいいと思いますが、念のため覚えておくといいかもしれません。
大幸薬品が、胃アニサキス症の予防・症状改善のための薬剤として 木クレオソートの新たな活用方法を特許出願
【寄生虫対策】身に移る前に内臓を取りのぞく
アニサキスをはじめとした食中毒の原因となる寄生虫の多くは、魚が生きている状態で内臓に生息しているとされています。
鮮度が落ちてくると内臓から身に移動してくるというのが定説で、その前提なら新鮮な状態のうちに内臓を取り除いてしまえばリスクを下げられるということになります。この処理は、前述のヒスタミン対策にもなります。サバや大きな青魚が釣れたときは早めに内臓を出しておくと安心。
ただ、魚が生きている段階でも筋肉、つまり身にアニサキスが移行している場合もあるようです。表皮に寄生しているケースもあり。内臓を取り除くのはあくまで食中毒の確率を下げる対策であり完璧とはいえません。やはりここにもリスクというものが存在します。
心配ならば、やはり生では食べず火を通す調理を選ぶべきです。
釣った魚の食中毒に対するリスク回避の方法
冷やして保存!真水で洗う!早めに内蔵を抜く!
ビブリオ、ヒスタミン、寄生虫。
これら3つの原因による食中毒リスクを下げるには以下のことに注意しましょう。
- 釣ったらなるべく早くクーラーに入れて冷やしたまま保存する。死んだままバケツに放置しない
- 可能であれば釣り場で内臓を抜いておく
- なるべく早く持ち帰って水道水で洗い、少なくともエラと内臓は取り除いておく
- 生の魚が触れたまな板などの調理器具は小まめに洗う
- 刺し身などの生食は火を通す食べ方に比べて確実に食中毒のリスクが高まることを頭に入れておく。食に100%の安全は有り得ない
こんなところでしょうか。
実際のところ、小アジみたいにジャンジャン釣れる小魚に対していちいち血抜きやワタ抜きなんかしてられませんし、逆にそれが食味を落とす原因にもなりかねません。
小魚の場合、基本は釣れたらそのまま「氷締め」にして家に帰ったらなるべく早く水洗いとワタ抜きの処理する、これでいいと思います。釣りから帰ったら疲れてるだろうけど下処理だけは頑張りましょう。下処理さえすませば、数日は生で食べられます。
氷締めの具体的は方法をこちらの記事で紹介しています。
食中毒対策として有効な魚の下処理方法はこちらの記事をご覧ください。
原因と理由を知れば高い確率でリスクを回避できる
食に対してゼロリスクは実現できない
脅かすようなことばかり書いてしまいました。
「生で魚を食べるのに多少のリスクがあるのはなんとなく知ってた。でも煮ても焼いてもリスクがあるなら魚なんてもう怖くて食べられないじゃないか!」
そう思わせてしまったかもしれません。でもそれはそれで正解なんだと思います。目に見えない細菌なんて完全に除去できるわけがないし。アニサキスだって身にいる可能性があるわけで、どうしても見逃すことがあるでしょう。焼こうか煮ようが100%の確率でリスクを回避することは不可能です。
でもそれは魚であろうと肉であろうと野菜であろうと同じこと。あらゆる食に対してゼロリスクはあり得ない。
知識という武器でリスクに対抗する
でもリスクが高まる理由や原因を知って適切な対策すれば、私たちは高い確率で食中毒を回避することができます。
食中毒の原因が今ほど解明されていない過去。かつてこんなことがあったそうです。
いまからさかのぼること数十年の1950年代、シラス干しについていた腸炎ビブリオが原因となり、大阪府下で集団食中毒が発生しました。発生当初は細菌が原因であることすら特定できなかったそうです。そのせいで第三者による毒物混入すら疑われたとか。
90年代中ごろに大阪で発生したO-157による集団食中毒もカイワレが原因との報道が盛んに行われていましたが、結局原因として断定はできず、国に損害賠償請求をした農園が勝訴していたりします。
その時代と比べたら、現代に生きる私たちはリスクに対抗できる知識や情報という強力な武器を持っています。鮮度を保つための設備や道具も飛躍的に性能が上がっている。
それが無い時代は姿形も分からないオバケや妖怪と戦うようなもんだったかもしれませんが、原因や対策が分かっている今はもう菌が目に見えているも同然です。
確かな知識と情報を身につければ、見えないものも認識できる。ゼロにはならないけどリスクを下げられる。私たちはコロナ禍を経て学びました。正しく恐れ正しく対策しよう。
過信は禁物だけど神経質になる必要はない
はっきり言って魚の食中毒対策は面倒です。
冷やして洗って取り除いてまた洗って、処理する魚の数が増えれば増えるほど面倒。
でも「今まで大丈夫だったから手を抜いても平気。食中毒対策なんて無意味だ。」なんてサボりだしたころに危険が待ち構えてるんじゃないかと思うんです。
まるで「お酒を飲んでるけど、今まで事故ったことないからへーきへーき!」って車を運転するようなものじゃないか。
かといって過度に心配する必要もありません。
ちゃんと決まり事を守れば「ほぼ」大丈夫。オバケは怖いけど出現条件を回避すれば出てこない。妖怪が出ても対処法を知っていれば大丈夫なのと同じように。「べとべとさん、先へおこし」みたいに決まり事を守ればいい。
疲れていたり体調が悪いなら生食は避けよう
ちょっと今日は体調が悪いとか疲れているとか、抵抗力の低い幼児やお年寄りに食べさせるというなら生食は避けたほうが無難だと思います。そんなときは新鮮な魚でもできるだけ火を通すレシピを。自己責任とか言ってられないから。
何度も書いてしつこいですが、どんなに丁寧で完璧な予防をしようが食に対して100%安全という域には絶対到達できません。でも100%に限りなく近い域には持っていける。
リスクとその対策をしっかり理解したうえで、楽しい、そして美味しい釣りライフを満喫しましょう!