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真水で水っぽくなる理由とは?釣った魚と浸透圧の関係

魚の保存と浸透圧の関係
魚の処理方法初心者向け魚料理特集釣りコラム

釣った魚の保存について調べるとよく出てくる「海で釣れた魚を真水で冷やすと、浸透圧の関係で水っぽくなるから必ず海水で冷やそう」というフレーズ。

なんとなく理解した気になりますが、真水に入れられた魚はどんな原理で水っぽくなるのでしょうか?魚の保存と浸透圧の関係を理解して、魚を美味しく持ち帰りましょう。

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そもそも浸透圧とはなんなのか?

濃度の違う塩水が同じ塩分濃度になろうとする力

濃い塩水に薄い塩水の水分だけが移動する

濃い塩水に薄い塩水の水分だけが移動する

浸透圧とはなにか?

ここではクーラーボックス内に貯めた濃い塩水(海水)で魚を保存するという前提のもと、誤解を恐れずこのような表現で浸透圧を説明します。

水分だけを通す半透膜を隔てて塩分濃度の異なる塩水が接したとき、薄い塩水の水分のみが濃い塩水に移動して同じ塩分濃度になろうとする力

薄い塩水の水分が減るから塩分濃度が高くなり、薄い塩水から受け取った水分で濃い塩水が薄められるから塩分濃度が低くなります。水分のみが一方通行で移動するイメージです。やがて塩分の均衡が取れると浸透圧の作用はなくなります。

クーラーボックス内における浸透圧の関係

海水の中で海水魚を保存しているクーラーボックス内において、それぞれの言葉は以下のものを指します。

  • 半透膜…魚の皮(厳密にいえば魚の細胞膜)
  • 薄い塩水…魚の体液
  • 濃い塩水…海水

ひとまずここまで理解して真水につけるのがなぜNGなのかを先に片づけましょう。

出典:【浸透圧】濃度の違いで一方通行 | 自由研究におすすめ!家庭でできる科学実験シリーズ「試してフシギ」| NGKサイエンスサイト | 日本ガイシ株式会社

海で釣った魚を真水で保存してはいけない理由

海の魚を真水で保存すると水っぽくなる

海の魚の体液は海水より低いものの若干の塩分が含まれています。それに対して真水はほぼ塩分ゼロです。

魚を真水に漬けた場合、魚の塩分を薄めようと周りの真水が魚の身に入り込む浸透圧の力が働きます。結果として魚が水分を吸収し身が水っぽくなってしまう。

とはいえ紙に水が染み込むかのごとく急速に水分を吸収するわけではありません。水道水で洗うなど短時間の処理ならあまり気にする必要はなく、むしろそれは腸炎ビブリオの食中毒対策として重要です。

しかし真水に漬けて海の魚を保存してはいけない。美味しく食べるために必ず守りましょう。

砂糖でも浸透圧が働く

この記事では塩水に限定しますが、浸透圧が働く溶液は塩分に限りません。糖分でも同じ力が働き、氷砂糖を使って梅をシワシワにさせる梅酒が分かりやすい例です。

しめサバは酢締めをする前に塩で水分を抜くのがセオリーですが、砂糖で水分を抜くこともできます。

釣り人にはお馴染みのピチットシートも、糖分として水あめを含ませたシートに浸透圧で水分を吸収させる仕組み。使っても魚が甘くならないことから、水分だけが一方向に移動していることが分かります。(出典:効果と仕組み | 一夜干しから燻製まで幅広く使える食品用脱水シート  ピチットオフィシャルサイト

海の魚の塩分濃度は何%なのか?

魚の塩分濃度は人間と同レベル

海の魚の塩分濃度は0.9%

脊椎動物の塩分濃度は0.9%

海水の塩分濃度が3~4%ぐらいだというのは広く知られた知識。アサリの砂抜きで実践した人も多いはず。

一方で海の魚の塩分濃度はどれぐらいなのでしょうか?

海の魚の塩分濃度はおおよそ0.9%となります。塩辛い海水の中にいるのに思いのほか低い数値。

川の魚の塩分濃度も0.9%

そして意外なことに川の魚も同じ約0.9%なのです。

それどころか我々人間も約0.9%。犬も猫も0.9%。これには進化の過程が関わっているとされており、脊椎動物に共通の塩分濃度となります(出典:海水 – Wikipedia)。

イカなどの無脊椎動物は塩分濃度が異なる

脊椎動物とは異なり、無脊椎動物であるイカやタコの体液は海水と同じ塩分濃度となっています。

海水中でも脱水されることはなく、浸透圧の関係では均衡が取れている状態。そのため、海水の塩分濃度が下がると容易に均衡が崩れて身が水分を吸収してしまいます。クーラーボックス内で氷が溶けた水に触れないよう専用オプションのトレーが用意されていたり、イカ専用ビニール袋などに入れての保存が推奨されるのはこのためです。

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生きた魚は浸透圧調整能力が備わっている

海の魚が脱水で干からびないのはなぜ?

海の魚は水分をがぶ飲みしている

海の魚が持つ浸透圧調整機能

海の魚は自分の体よりずっと塩分濃度の高い海水で生きています。それにもかかわらず、どうやって0.9%の塩分濃度を維持しているのか?

浸透圧の関係だけを見れば海水にどんどん水分を持っていかれてシワシワになりそうなのに。

実際に海の魚は浸透圧で脱水され続けており、それをを防ぐため海水をガブガブ飲んで水分を補給しています。

海水の塩分を排出する仕組み

しかし当然ながら海水には塩分が含まれているので、それを排出しなければいけません。

ポイントはエラと尿。

エラにある細胞の働きによって濃い塩分を排出し、さらに体液と同じ濃度の塩分と少量の水分を尿として排出する浸透圧調整機能が海水魚には備わっています。(出典:魚と水|サステなミライ|サントリー

魚が死んだら浸透圧調整ができなくなる

魚を締めてクーラーボックスに入れる段階になると、魚はほぼ死んでいる状態であり、やがて生命維持活動も停止します。それと同時に浸透圧調整機能が失われた状態になることに注意が必要です。

この時点で海水中における海水魚の水分摂取と塩分排出はストップし、浸透圧による脱水のみが進んでいくことになります。

淡水魚も真水で保存するリスクがある

淡水魚は入り込む水分と常に戦っている

一方、淡水魚は生息域の水より体液の塩分濃度が高いので、水を飲まなくてもどんどん体に水分が入ってくることになります。

そのため、海水魚とは異なる浸透圧調整機能が働いています。(出典:魚と水|サステなミライ|サントリー

淡水魚も真水での保存は避けよう

淡水魚も海水魚も体液の塩分濃度は同じだから真水で保存すると水っぽくなるリスクは同じ。管理釣り場で釣れたマス類など淡水魚を持ち帰るなら、締めて冷やしこみが終わったら長く真水に漬けないほうがいいでしょう。

魚の保存はその魚が生息していた場所の水を使うのが最適という発信も見ますが、浸透圧の関係を理解すれば根拠不明で疑ってかかるべき情報だと分かります。

塩水浴は浸透圧調整機能の負担を減らすもの

観賞魚の分野では、調子の悪い金魚など淡水魚を0.5%程度の塩水に入れることで回復を図る「塩水浴」という治療方法があります。

これは淡水魚の塩分濃度である0.9%に近い塩水に魚を入れることで浸透圧調整に使われる体力を温存し、その体力を治癒にまわすことを意図したもの。魚はただ生きて浸透圧調整をしているだけでストレスを受けて体力を消耗しているわけです。

プールで目や鼻が痛くなるのも浸透圧のせい

海水魚も淡水魚も人間も塩分濃度はだいたい同じと分かったところで、自分の体の浸透圧を身をもって理解できる例をひとつ。誰しもが経験した”痛い”現象です。

プールでゴーグルをせずに目を開けたり鼻に水が入ったりすると沁みて痛いですが、これは浸透圧が原因。プールの真水が目や鼻の薄い粘膜にある細胞内の塩分を薄めようとして侵入し、細胞が膨らむことで脳に痛みの信号が送られるのです。

一方で涙や鼻水、そして目薬がしみないのはそこに塩分が含まれているからです。

出典:朝日新聞 | 鼻に水が入るとなぜ痛い? 細胞が膨らみ、脳に信号が伝わる

魚が水っぽくなる氷の量はどれぐらい?

海水が薄まるのは少しでも避けるべきか?

なるべく海水を薄めないのは正しい

ペットボトル氷や保冷パックを使うのは有効
ペットボトル氷や保冷パックを使うのは有効

浸透圧とはなんなのかということ、そして海の魚の塩分濃度が意外と低いことが分かりました。真水での保存がNGというのも理解できました。

このような浸透圧の関係から、溶けた氷で海水が薄まるのはなるべく避けるべきというセオリーがあるわけです。板氷は袋のまま入れろとか、保冷パックやペットボトルを使えというアドバイスは間違っていません。

0.9%以上の塩分濃度があれば問題ない

中には少しでも海水を薄めたら魚の鮮度が落ちるという極端な論法もあります。

しかし浸透圧の関係だけにフォーカスすれば、海水の塩分濃度が0.9%を下回らない限り魚が水っぽくなる問題は起きません。

ではどれぐらい氷が溶けても大丈夫なのか、シミュレーションをしておおよその許容量をイメージできるようにしてみましょう。

5リットルの海水を板氷で冷やす前提でシミュレーション

サビキ釣りでの魚の保存を想定

イメージしやすいよう、具体的に容量15リットルのクーラーボックスに塩分濃度3%の海水が5リットル入っているという前提で考えます。

5リットルの海水は、150グラム(5kg×3%)の塩と4.85リットルの水で構成されており、150グラムの塩の量は水を捨てない限り変化せず一定です。

塩分濃度3%の海水5リットルには塩が150グラム含まれる

堤防や釣り公園でのサビキ釣りで氷締めをする際に有り得そうな環境です。

この海水を裸のままの板氷で冷やして氷締めの用の潮氷を作る前提でシミュレーションしましょう。

板氷1個が溶けたら塩分濃度は2.2%

板氷1個が溶けたら塩分濃度は2.2%

海水を冷やすため、1.7リットルの板氷をビニール袋から出して裸のままクーラーボックスに入れました。

この氷が完全に溶けてしまった場合、海水の総量は6.7リットルに増えて塩はそのまま150グラム、氷が溶けた水分によって塩分濃度はおおよそ2.2%に下がります(0.15kg÷6.7L)。塩分濃度はまだまだ十分な濃さを保っています。

ぜんぜん余裕!板氷2個が溶けたら塩分濃度は1.7%

板氷2個が溶けたら塩分濃度は1.7%

夏場なら半日足らずで板氷が1個溶けます。さらに板氷を1個足して2個目。

なんやかんやでこれも溶けて海水の量は8.4リットル(5L+1.7L×2)になり、塩分濃度はおおよそ1.7%(0.15kg÷8.4L)となりました。まだ魚の塩分濃度の倍近くあるので問題ありません。

まだ頑張れます!板氷3個が溶けたら塩分濃度は1.5%

板氷3個が溶けたら塩分濃度は1.5%

真夏に丸一日釣りをするなら板氷は3個ぐらい必要です。

3個溶けた水の総量は5.1リットル(1.7L×3)となりほぼ2倍希釈。クーラーボックス内の水は10.1リットル(5L+1.7L×3)になり、もはや持ち運ぶのも大変な重さです。これはそろそろやばいかもと思いきやまだ塩分濃度はおおよそ1.5%。余裕で許容範囲。

ついに限界!板氷が6個溶けたら塩分濃度はおおよそ0.9%

板氷が6個溶けたら塩分濃度はおおよそ0.9%

途中は省略し、最終的に塩分濃度0.9%を下回りそうな量は板氷6個分となりました。

この時点でもう海水が15リットルを超えてクーラーからあふれ出ています(5L+1.7L×6)。これはボウズで魚が一匹も入っていない場合の計算。魚が釣れてクーラーボックス内の体積が増えていたら、とっくにあふれています。

普通に釣りをして釣果があるなら、板氷を4つほど溶けた時点で相当な時間が経過しているし「もう帰ろう」という雰囲気になってるはずなので、現実的ではありません。

いずれにせよ追加できる氷の量には意外と余裕がありそうです。

水っぽくならない安全な目安は海水と同量の氷

まずは冷やすことを優先しよう

2倍希釈までは問題なし

最初に入れた海水と同容量の氷なら問題なし!

魚が水っぽくならない安全な氷の許容量を目安として出すなら、海水と同量の氷を入れてすべて溶けたとしても全く問題ないということになります。塩分濃度3%の海水なら同じ量の氷を足してまだ1.5%。2倍希釈程度なら浸透圧で水っぽくなる問題は起きにくい。

板氷が1つ溶けたところで神経質になる必要はないでしょう。

塩分濃度より保冷に気を使おう

安全に美味しく食べるためには海水が薄まるより保冷することの方が重要です。氷が溶けたら迷わず足しましょう。

やむを得ず許容量を超えた氷を足さないといけない状況であれば、食塩をひとつかみ程度足せばとりあえず回避できます。

塩分濃度が低い海水に注意

夏の湾奥は塩分濃度が1%台

この記事では計算しやすいように海水の塩分濃度を3%に設定しましたが、太平洋など外洋の海水塩分濃度はおおよそ3.5%です。

一方で湾の奥などは塩分濃度が低くなります。例えば大阪湾の武庫川一文字付近は地理的な要因で塩分濃度が常に低く、極端なタイミングだと1%程度になることすらあります(出典:大阪湾環境データベース)。その海水を使う場合は氷の量に注意したほうが良さそうです。

特に海水の塩分濃度が下がる夏は、塩分濃度を下げない保冷パックやペットボトル氷を使うのが無難だといえます。