釣ったサバを食べるにおいて注意しなければいけないのが食中毒。
魚の食中毒はサバに限った話ではありませんが、サバは特に食中毒になりやすい、あたりやすいというイメージがあるんじゃないでしょうか?
他の魚より食中毒になりやすい要因があるのは確か。しかし正しい知識を身につけて正しい処理をすればサバにあたるリスクは確実に下げられます。
「サバにあたる」ということはつまりどういうことなのか。それを知って安全に美味しくサバを食べましょう。
さばにあたる原因は主に2つある
サバにあたるということ。これには主に2つの原因があります。
それぞれが引き起こす症状は異なります。
ヒスタミン食中毒は顔が赤くなったり、蕁麻疹ができたり、発熱したりといった食物アレルギーに似た症状。アニサキスは主に強烈な腹痛という症状がでます。
共通の対策でリスクが減らせますが、それぞれの原因や差異を知っておくべき。
腸炎ビブリオにも注意
もうひとつ腸炎ビブリオという海水中に存在する細菌でも食中毒が起こる可能性がありますが、これはサバに限らず海産物であればなんでも注意すべきものなのでここでは省略します。詳しくはこちらの記事を参照してください。
軽視していいわけではなく、腸炎ビブリオもしっかり対策すべきです。
対策をしても100%安全にはならない
また、いくら慎重に対策をしたからと言って100%の安全は確保できないことも認識しておく必要があります。しかし知識を身に着けて対策することで、それを限りなく100%に近づけることもできます。
ヒスタミン食中毒とアニサキス食中毒。それぞれの原因と対処について解説していきます。
ヒスタミンによるサバの食中毒
ヒスタミン食中毒の症状
アレルギーのような症状が出る
サバを食べたあとに、ブツブツができたり熱が出たり顔が紅潮したり吐き気がしたり。アレルギー反応のような症状が出ます。
ヒスタミン食中毒の原因
鮮度落ちが原因でヒスタミンが発生する
サバのタンパク質そのものに対してのアレルギーもありますが、多くの場合鮮度落ちが原因。
鮮度が落ちることでサバにもともと含まれているヒスチジンからヒスタミンが生成されてしまい、それを摂取することでアレルギーに似た症状を発症します。
学校給食でも起こりやすい食中毒
保育所や学校の給食でも発生することが多く、ヒスタミン食中毒者の年齢別割合は15歳未満が60%程度を占めます。(出典:厚生労働省の平成18~27年の調査結果)
学校施設での集団ヒスタミン中毒はときおりニュースとして報じられます。
ヒスチジンは青魚全般に多く含まれる
ヒスチジンはサバを含む青魚全般に多く含まれる成分。サバよりカツオやマグロに多く含まれており、赤身魚として知られる魚はヒスチジンを多く含んでいると考えていいでしょう。
ヒスチジンそれ自体は害のあるものではありません。なんなら必須アミノ酸としてサプリメントが売られてたりもします。
ヒスチジンからヒスタミンになるのには明確な原因があり、対策をすることによって高確率で回避が可能です。
ヒスタミン食中毒への対策は冷却と迅速な処理
ヒスタミンが発生する原因はサバの鮮度低下によるもの。
サバの生き腐れを防ぐ
サバの鮮度が低下するに伴って、内蔵やエラにふくまれるヒスタミン産生菌の酵素がヒスチジンをヒスタミンにかえてしまいます。
サバは釣ってしばらく経って鮮度が落ちると内蔵がどんどん溶けて腐敗が進み、お腹の中がデロデロの状態になっていきます。俗に言う「サバの生き腐れ」ってやつです。パッと見は新鮮そうに見えても内部では腐敗が進行しているという状態。
釣ったサバを料理をしようとお腹を開くと、内臓周りの骨、いわゆる腹骨が身から分離していることで鮮度落ちが分かります。鮮度が良ければ腹骨はビシッと身に張り付いたまま。この鮮度落ちの過程でヒスチジンがヒスタミンに変化するというわけです。
サバの鮮度落ちを遅らせる方法
しかしサバの鮮度が落ちるスピードを低下させる手段があります。
ひとつは調理するまでとにかく冷やした状態を保つこと。釣ったサバは常温で放置せず、できるだけ早くクーラーボックスに入れて冷やしましょう。そして持ち帰ったら内蔵を抜くなどの下処理をなるべく早く済ませる。そしてまた調理するまでは冷蔵保存の徹底。
釣ったサバの内臓を抜いておく
自分で釣ったサバの場合はさらに効果的な処理方法があります。釣れた直後にその場で内蔵と血を抜く処理です。こちらに関しては後ほど詳しく説明します。
買ってきたサバであっても条件は同じかあるいは釣ったものより鮮度が悪いことも多々あるので、買ったらなるべく早いうちに内臓を抜く処理をしたほうがいいでしょう。パッケージに入って売られているサバでも、お腹がブヨブヨしている、お腹を押したら肛門から何かが大量に出てきた、全体的に輝きが無いなど、鮮度を判断できる要素があります。
釣った直後の新鮮なサバを知れば、鮮度が落ちたものかどうか全体の雰囲気で一次的な判断ができるようになったりします。
ヒスタミンは加熱や冷凍で消えない
ヒスタミンについてはとても厄介なことがあります。それは熱を加えても凍らせても毒性が消えないということ。
煮ても焼いてもダメ
傷んでいても焼いたり煮たりすれば大丈夫…そのように思いがちですが、ヒスタミンは熱で無効化することができません。カチコチに凍らせてもダメです。カラカラに乾燥させてもダメ。これは後ほど説明するアニサキスより厄介です。
鮮度が落ちてるともうアウト。塩焼きにしてもサバ味噌にしてもダメ。干物にしたってダメ。冷凍してもダメ。粉末にしてもダメ。もう捨てるしかない。
サバの加工食品でも起こり得る食中毒
この特性のせいでサバを利用した加工食品であってもヒスタミン食中毒が発生する可能性をはらんでおり、学校給食でそれが起こる要因のひとつだと推測できます。安全だという先入観がある缶詰でも食中毒が起こり得ますし、出汁をとるためのサバ節でもその可能性があります。
サバを食べてブツブツが出来た経験があるんで「俺サバアレルギーなんすよ~」と思ってる人は、サバ自体にアレルギーがあるのではなく、鮮度が落ちてヒスタミンを含んだサバを食べてしまったからというケースのほうが多いのかもしれません。
同じものを食べてもその時の健康状態や個人差で症状が出るとき出ないときがあるので素人判断は難しい。アレルギーかヒスタミンか?しっかり原因を突き止めるには病院での血液検査が必要です。
アニサキスによる食中毒
サバを筆頭とした青魚についている可能性が高い「アニサキス」という寄生虫。
アニサキス食中毒の症状
胃に激痛をもたらすアニサキス
カツオやマグロ、サワラなどの青魚に多いアニサキス。これを胃や腸に取り込んでしまうことで強い腹痛をもたらすのがアニサキス食中毒の主な症状。
イワシやアジなど釣りのターゲットとして身近な魚にも潜んでいる可能性がありますが、とりわけ寄生が多いとされているのがサバです。
魚売り場で売っているようなサバからも当たり前に見つかる、実はごくありふれた寄生虫です。地域差や個体差はありますが、海の綺麗さなどは関係なく寄生しています。
ときおりニュースで報じられる
アニサキスが胃に入ってしまうことで激痛をもたらします。どういうわけか芸能人がアニサキスにやられたというニュースがたまに流れるので知っている人も多いでしょう。
たぶん、5日間熟成させたサバを生で食べさせるとか尖ったことをやってる店で食べたんじゃないかと思ってます(という偏見を芸能人に対して持っています)。
アニサキス食中毒の原因
アニサキスは人間に寄生できない
アニサキスが胃壁を食い破るからめっちゃ痛い!というイメージがあるかもしれませんが、アニサキスにそこまでの力はありません。
胃液というアニサキスにとっての地獄から逃げようと頭を胃壁にもぐりこませる程度。アニサキスなどのせん虫類を観察していると分かりますが、彼らは体をくねらせて前に進むことしかできません。
実はアレルギー反応で痛みが出る
アニサキス食中毒の痛みはアニサキスが胃に潜り込んで突き刺す物理攻撃というより、アニサキスが分泌するアレルゲンが胃壁と反応することによるアレルギー反応の痛みらしいということが分かっています。
アレルギー反応ということは、同じようにアニサキスを胃に入れても痛みを感じる人とまるで平気な人がいる可能性があります。例えば花粉症のように。
そして蜂に2回刺されるとアナフィラキシーショックを起こすのと同じく、一度アニサキス食中毒を起こすと次にアナフィラキシーショックを起こして重症化する危険もあります。
いずれにせよ体が弱っているときは避けるのが無難でしょう。
正露丸はお守り程度に
正露丸が特効薬のように扱われることがありますが、これは話半分、お守りぐらいに思っておいた方がいいでしょう。そもそもクレベリンで散々やらかしている大幸薬品の発表なので参考程度に。
最も効果的なアニサキス食中毒対策は加熱
ヒスタミンと違ってアニサキスは火を通しさえすれば簡単に死にます。
焼いたり煮たりすれば回避できる
先述のヒスタミンと違い、サバを揚げたり焼いたりする調理なら気にする必要はありません。気を付けなければいけないのは、生や生に近い状態で食べる場合です。
サンマにもよくついている寄生虫なので、サンマの塩焼きで内臓も食べるって人は今まで気付かず口に入れて消化しています。こんどサンマを食べるときは内臓をほじくってじっくり観察してみてください。それがアニサキスかどうかは断定できませんが、白くなった死んだ糸状の寄生虫が高確率で見つかるはずです。
冷凍も対策になる
また、マイナス20度で24時間冷凍すれば死ぬとされています。
よって業務用の強力な冷凍庫で一定時間凍らせたものならアニサキスに対しては安心と言えます。
家庭用冷凍庫は性能の確認を
対して家庭用冷凍庫における標準設定ではマイナス20度に少し足りない場合もあると思われます。冷凍庫の温度調整ができるタイプであればなるべく強力な設定をしたうえで、さらに冷凍時間を延長する必要があります。
私が使っているセカンド冷凍庫の説明書を改めて確認したところ、標準設定で約マイナス20度になるとの記述がありました。強設定ならマイナス30度前後。これならなんとかなりそうです。
例に挙げた冷凍庫はいわゆる「フォースターの性能」を持っています。
最近の冷凍庫であればフォースター性能を有していることが多いと思いますので、設定を強にすればマイナス20度の水準は達成できるはず。
家庭での冷凍庫ではアニサキス対策の条件を満たせないと言及されることが多いのですが、製品のスペックから判断する限りは一概にそうとも言えません。あなたがお使いの冷凍庫も性能を確認してみてください。
酢や醤油ぐらいでは死なない
「きずし(いわゆるしめ鯖)にする場合は酢がアニサキスを死なせるから、加熱や冷凍をしない生でも大丈夫なんだね?先人の知恵だ!」なんて思うかもしれませんが、酢ぐらいでは簡単に死にません。醤油やわさびも同様。市販のしめ鯖は多くが冷凍処理されています。
アニサキスはとてもタフ
市販の魚についていたアニサキスを塩粒にそのまま埋めたことがあるのですが、一時的に弱りはしたものの簡単には死にませんでした。しめ鯖を作るときは脱水するために塩を振りますが、その程度の塩の量は屁でもなさそうです。そして水に戻したら元気にクネクネと復活するタフさ。
よく魚屋で売ってるサバに「きずしにできます」なんてラベルを貼って売られてますが、自家製シメ鯖を作って食べるのも結構なギャンブルだと思います。売る方もリスクを抱えるのではないかと。
よく噛めば大丈夫というのも眉唾
もうひとつアニサキス対策として”よく噛んで食べる”というのも定番ですが、そう簡単に噛み切れるモンじゃ無さそうです。実際食べて試した方がおられます。
小さく細いから無意識に噛むのは困難
人間の歯と顎の力をもってすれば千切れるとは思いますが、アニサキスは糸のように細いのでしっかり歯が噛み合う箇所で無意識に噛めるかどうかは運次第でしょう。
噛めたとしても意外と強靭です。例えばカマキリのお尻から出てくるハリガネムシ。あれほど硬くはないですが似たような体のつくりです。
また、基本的には目視できる大きさの寄生虫なのでじっくり身を見て判断するというのも対策の一つ。ただし、身に深く潜り込んでいる状態だと発見するのは困難なので、これも確実な方法とはいえません。
アニサキスはブラックライトで光る
波長が365nm付近のブラックライトを照射するとアニサキスが光るというのも最近知られるようになった知見ですが、これも身に深く潜り込んでいては判別が困難です。
加熱で死んだアニサキスがアレルギーの原因になることも
アニサキスによる健康被害は生きたアニサキスを体内に入れることによって胃や腸に激痛をもたらすもの、というのが一般的な理解です。
耐熱性のあるアレルゲンをもつ
しかし、そのアニサキスのたんぱく質自体がアレルギーの原因となるケースがあります。
アニサキスがもつアレルゲンには耐熱性をもつものがあり、熱を通して死んだ状態でも起こり得るので加熱で回避できません。これはここで説明するより、さとなお氏の実体験をお読みいただくべき。
この経験から、のちにアニサキスアレルギー協会を設立されたようです。
アレルギーの原因はありふれている
これを過剰に気にし始めると、アニサキスよりもアレルギーの原因になることが多い蟹や蕎麦も忌避しなければならないということになってしまいます。ごはんもパンも牛乳もキウイも桃も危険ということになります。
危険を回避するためにそれらを避けるのも間違ってはいないですが、実生活で除外するのはなかなか難しいこと。
そういうこともあるんだなという程度に知識として頭に入れておけば、もしもの時の判断材料になるかもしれません。
サバの食中毒対策は冷やすことが重要
先ほど挙げた、ヒスタミンとアニサキス、そして腸炎ビブリオによる食中毒。これらを回避するために共通で最も効果的な方法があります。それがこれ。
釣ったサバを迅速に冷やして保管する
釣ったサバを直ちに冷やすこと。そして調理前までしっかり冷やし続けること。つまり鮮度を保つということ。冷やすことでヒスタミンの生成を抑え、アニサキスが内臓から身へ移動するのを防ぐことができます。
釣ったら潮氷でしっかり冷やそう
具体的な方法はシンプル。
氷でキンキンに冷えた海水 – 潮氷 – を作る
クーラーボックスに保冷材や氷を入れ、そこに海水を注いでキンキンに冷えた「潮氷」を作る。釣れたサバを出来るだけ早くそこに漬けて冷やす。たったそれだけ。
これをやるやらないで食中毒のリスクが大きく違ってきます。美味しさも違ってきます。生臭さや味にも影響するのです。
常温での放置は厳禁
釣れたサバをバケツなどに入れて放置するなどはもってのほか。地面に置いておくとかとんでもない。
夏場などはすぐにお湯のような温度になってしまうので、そこに長時間放置するというのは積極的に食中毒の原因を作って不味くしているのと同じ。
また、YouTubeでみたすごい血抜きとか締め方を試すのは魚の扱いに慣れてからすればいいです。まずはとにかく冷やすこと。これを頭に入れておいてください。
ではそれぞれの食中毒について詳しくみていきましょう。
サバの刺身は美味しいけど自己責任で
サバの生食で食中毒になる原因を知り、それに対してしっかりした処理を行えば刺し身で食べることも可能です。率直に言って鯖の刺身は美味しい!おすすめできませんがおすすめしたい…!
安全に美味しくサバを食べよう
サバの食中毒について解説しました。
私自身知識をつけた対策をし続けた結果、同じものを食べた家族を含め今までサバにあたったことはありません。きっちり処理すれば食中毒のリスクはゼロに近くなる。その実体験を根拠にして生でも安全だよと断言することもできませんが。
サバに限らず魚を食べるということ自体に多少なりともリスクが伴うことは知っておくべき。過度に恐れる必要はないけど、同時に100%安全ということも有り得ないのです。正しく恐れましょう。