管理された池や川に養殖されたニジマスを放流し、それを釣る釣り。管釣り、エリアトラウト。
ほとんどの管理釣り場では、釣ったニジマスを持ち帰ることができます。
管理釣り場で釣れるニジマスの大きさは20センチ台が多く、塩焼きにしたりムニエルにしたりと、食材として使い勝手がいいサイズです。釣ったら食べるが信条の私自身、制限の範囲いっぱいまで持ち帰って美味しく食べています。
釣り場によっては40センチを超えるような大物を混ぜて放流してくれる場合も。20センチ台とは全く違う強い引きを楽しむことができ、釣り上げた達成感もひとしおです。
それぐらいの大きさになると、身の色が鮭のように赤く染まったいわゆる「赤身」のニジマスになっている場合があります。そしてもし赤身のニジマスを釣り上げたのなら、ぜひ持ち帰って刺身で食べることをおすすめします。
そんなあなたにこの記事を読んで欲しい。大丈夫なんです!ニジマスを生で食べても!
ニジマスを生で食べても安全な理由
淡水養殖ニジマスの生食は全国養鱒振興協会おすみつき
かつての私も「淡水魚には危険な寄生虫がいるらしい」というぼんやりとした認識があり、ニジマスを生のまま食べるなんてとんでもないという思い込みがありました。
その思い込みが消えたのは、管釣りを始めてニジマスを調理するようになってから。塩焼きやムニエルなど定番のニジマスレシピを一通りこなし、そろそろこの食べ方にも飽きてきたなというとき、全国養鱒振興協会のサイトで「安心の生食」というコンテンツを見たのがきっかけです。
管理釣り場で釣れるニジマスは淡水で養殖されたニジマス。しっかりとした管理のもとで安全に育てられています。

滋賀県の醒ヶ井養鱒場で養殖されているニジマス
淡水養殖なら寄生虫のリスクも回避できる
言うまでもなくニジマスは鮭と近い種です。
だから鮭につく寄生虫はニジマスにも寄生しているはず。そんな固定観念をもっている人は多いでしょう。鮭をはじめとした魚の寄生虫といえばこれが思い浮かびます。
- アニサキス
- 日本海裂頭条虫(いわゆるサナダムシの類)
アニサキスは海水域由来の寄生虫。サバやサンマなどの海水魚についている寄生虫として有名です。だからずっと淡水で育てられ人工のエサを食べているニジマスには寄生のしようがありません。
日本のサケ、マス類に寄生するサナダムシも海水域由来の日本海裂頭条虫という種類のサナダムシ。こちらも淡水域では寄生できないため、国内の淡水養殖マス類からは発見されていません。
それでも他の寄生虫が養殖施設外から入ってくるのでは?寄生虫以外の要因で食中毒になる可能性もあるのでは?完全にリスクゼロにできないのでは?という心配があるかもしれません。それはそれで正しいのでしょう。
ニジマスに限らず、どんな魚でも生食に対するリスクがゼロになることはあり得ません。そもそも魚を含めたあらゆる食べ物の生食自体が100%安全とは言い切れない。そのリスクを減らすには加熱する必要がある。そして残念ながら加熱したからといって安全とも言えない。サバのヒスタミンとか。
あらゆる食においてゼロリスクを期待してはいけない。
養殖ニジマスの生食について、適切な処理さえすれば限りなく100%に近い値で安全という認識でいいと思っています。それでも危険というならこの記事は速やかに閉じてあなたの信じる食材を食べ穏やかにお過ごしください。私は対策をしたうえでの生食をオススメする立場ですが、だからといってあなたの判断が間違っていると言うつもりもないです。
なお、野生化している可能性があるニジマスの生食について安全は保証できません。あえてそういうニジマスを狙う人は最初から分かっていると思いますが、自己責任でご注意を。
刺身は最も手軽な魚料理かも
ふだん料理をしない人や釣りを始めたばかり人にとって、刺身は敷居の高い料理だという認識があるかもしれません。刺身用の切り身を買ってきたり外食で食べる前提のもので、自分で作るなんてとんでもないと。
しかし、刺身は最も手軽な魚の食べ方のひとつ。なんたって味付けをする必要がないから味音痴でも関係ないし、火を通さないからうっかり焦がすとかもあり得ない。失敗する確率が少ない料理法。
なんとなく寄生虫や食中毒が怖いという意識もあると思いますが、しっかりと知識を付けて適切な処理をすれば100%に近い値で回避できます。同時に100%もあり得ないけど、それを言えばどんな食材だって同じ。
慣れればむしろ売ってたり外食で食べたりする刺身の方が、処理過程が分からない分だけ怖いなんてこともあります。
というわけで自分で作る刺身、どんな魚からでもいいのでぜひチャレンジしてみてください!

そもそもニジマスの刺身は美味しいのか?
もちろん美味しい!そしてすでに大人気の魚
養殖されたニジマスは生で食べても問題ないことが分かりました。
そもそもニジマスの刺身って美味しいの?淡水魚だから生臭いんじゃないの?ゼロじゃないリスクを冒してまで食べる価値はあるの?という疑問があるかもしれません。
これに関してははっきりこう言いきれます。
なぜかって?
それは日本国民のほとんどが一度は食べたことあるはずの食材だから。なんなら月一回ぐらいのペースで食べててもおかしくないから。そして既に老若男女に大人気だから。もしかしたら今の日本で一番人気のある生魚かもしれないから。
「こいつ何言ってんだ?」とお思いでしょうが、これは事実なのです。
回転寿司のサーモンはニジマスだった
なぜならその正体は回転寿司でお馴染みのサーモンだから。
回転寿司でサーモンとして扱われる魚は、主に以下2種の養殖魚。
- アトランティックサーモン
- サーモントラウト
このうちサーモントラウト(トラウトサーモン)がニジマスで、海で養殖されたニジマスがサーモントラウトとして扱われている、ということになっています。海で養殖するほうが効率よく育てられるらしい。
近畿圏だと須磨の海などで試験的にニジマスの養殖が行われていて「神戸元気サーモン」として売り出そうとしています。
垂水のマリンピア神戸近くでも養殖されていて、そちらは「西垂水美味魚(びみうお)サーモン」というブランド名がついているそうです。
ニジマスではなく淡路島のようにサクラマスが使われることもありますが、全国各地でこのようなご当地サーモンが開発され流行しつつあります。
淡水養殖と海水養殖。多少風味は異なるかもしれませんし、ブランドごとに工夫を凝らして味も違うと思いますが、もとは同じニジマスという魚。つまり美味しいことには間違いない!
なお、マスはトラウトなのになんでサーモンを名乗ってるんだということに関してはちょっと話がややこしそうなので、ここでは割愛させてもらいます。調べれば調べるほど線引きが分からなくなりました。気になれば各自お調べください。
サーモン中尾氏のブログが世界一詳しいと思います。
赤身のニジマスになる条件
赤身ニジマスの見分け方
40センチを超えているからと言って必ず赤身になるわけではなく、開いたら白身でがっかりということもあります。白身も十分美味しいけど。

デカいのに白身のままということもよくある
今までの経験でいうと、35センチを超えて体高が他より明らかに高いニジマスだと赤身の確率が高いです。
また、体が全体的に黒っぽくて顔つきがサケのように厳つく、体側面やエラぶたにあるピンク色が濃い場合も赤身の確率が高い。
赤身のニジマスは「赤身」じゃない
ニジマスの身は赤く見えますが、マグロの赤身とは異なります。分類でいうならニジマスの身は白身。
ではなぜ赤くなるかというと、エビやカニなどの甲殻類に含まれるアスタキサンチンを摂取した結果です。養殖ではアスタキサンチンを含んだエサを食べているため、それが身に蓄積することでどんどん赤くなります。養殖歴の長いベテランさんほど赤いというわけですね。
ニジマスのさばき方と刺身の作り方
まずは自分で釣りにいこう
さあ、ニジマスは生で食べても安全、そして美味しいことが分かりました。これはもう食べるしかないでしょ!とびきり新鮮なやつを自分で釣って。
まずは最低限の道具をそろえて管理釣り場へ行ってらっしゃい!
大型のニジマスが放流されている釣り場に数回通えば、40センチクラスがゲットできるチャンスに恵まれるはずです。ビギナーの私ですら、2回に1匹は確実にゲットできているのだから。
ドラグをしっかり活用すれば、3LB(0.8号)の細いラインでも40センチサイズを上げられます。海でエサ釣りをしてる人なら0.8号のラインで40センチの魚を釣るなんて無茶な!と感じるかも。サビキのエダスとか小魚用のハリスに使う太さですもんね。でもトラウト専用タックルを使ってリールのドラグを活用することで釣り上げることができます。
できれば釣り場で血抜きをしておく
可能であれば釣り場で血抜きをしていきましょう。
生きたままハサミなどでエラの上部を切断してバケツの水に頭からつけておくだけ。それでどんどん血が抜けていきます。なるべく臭みを減らして鮮度を保つコツです。

血抜きはエラを切って水につけておくだけ キッチンバサミが便利
こちらのニジマスは、大阪の芥川マス釣り場で釣った40センチ近いニジマスです。水質が良いせいかここのニジマスは美味しいし、血抜きに使う水もきれいな川の水が使えます。
もし処理スペースがあるような管理釣り場なら、エラと内臓と血合いも取り除いておきましょう。持ち帰った後の処理がラクでゴミも減ります。
自然の川を利用した釣り場ならその場で処理をしていいと思いますが、取り除いた内臓をそのまま放置するのはやめておきましょう。原則持ち帰るべき。海ならそれを捕食分解する生物がたくさんいるのですぐに形がなくなりますが、冷たい川の場合はちょっと時間がかかります。
ウロコを取って水分を取り除く
エラと内臓と血合いは、帰宅したらすぐできるだけ早く取り除いてください。内臓がついたままだと鮮度が落ちやすくなります。
取り除けたら、ウロコを落としていきましょう。

ウロコ取りでウロコを落とす
百均で売ってるウロコ取りでも十分とれます。
ニジマスのウロコは小さくて柔らかいので、口に入ったとしても違和感は感じません。だからそんなに一生懸命取る必要はないのですが、身に紛れてしまうと見た目的に良くないので私はしっかりウロコを落とします。同時に表面のぬめりや汚れも取れ、同時に臭みとりにもなるのでやっておくべき。
ウロコが落とせたら、キッチンペーパーなどで表面の水分をしっかり拭き取っていきます。

表面の水分をしっかりと取り除く
しっかり水分を取り除くことで、ニジマス特有のぬめりも気にならなくなります。表面だけではなく、開いたお腹の中の水分も取り除いておきましょう。

お腹の水分も取り除く
しっかり水分がとれたら、いよいよ刺身にするためにさばいていく…とみせかけて、冷蔵庫で一晩以上寝かせます。
キッチンペーパーにくるんで、タッパかジップロック的な袋にいれて冷蔵庫へ。

キッチンペーパーでくるんでからジップロック的な袋に入れて寝かす
もちろん釣ったその日に食べてからといって特に問題はありません。釣れたてを刺し身にするとしっかりと弾力を持ったプリプリの歯ごたえが楽しめます。それはそれで美味しい。
じゃあなぜ寝かせるかというと、それによるメリットがあるからです。
一晩から数日冷蔵庫で寝かして熟成させる
ニジマスを寝かすことによってこのようなメリットが生まれます。
- 身が熟成されて旨味が強くなる
- 身の弾力が落ち小骨が抜きやすくなる
- 皮を引きやすくなる
身を寝かせることで熟成が進み、より濃厚な旨味を感じる身になります。
それと引き換えに弾力をもったプリプリの歯ごたえは落ちていくのですが、どっちを取るかはあなた好みで。もともと旨味が強い身なので、釣りたてでもじゅうぶん美味しいです。
身の弾力が落ちることで、サケマス類特有の小骨である上神経骨が抜きやすくなります。釣ったばかりの締まった身だと小骨を抜くのも大変です。また同じ理由で皮も引きやすくなります。
冷蔵庫で保存するとして何日ぐらい刺し身で食べられる状態で保存できるかと言うと、3日ぐらいは問題なし。もちろんここで書いてるような下処理をした前提でなら。
三枚におろしてさばいていく
それでは3枚におろしていきます。
申し訳ないですが、私は左利きゆえ包丁を左持ちしています。以降の写真は左手で左利き用の包丁を持った様子ということでご理解ください。
まずは斜めに刃を入れて頭を切り落としましょう。

頭を落とす
次に3枚におろしていきます。
最初に腹から刃を入れ、刃先に背骨があたるまで身をそいでいきます。

腹からおろしていく
少しずつ刃を進めて身をそいでいきましょう。

少しずつ刃を進めて丁寧に
三枚おろしのセオリー通り、腹背背腹の順番に刃を入れていき三枚におろしていきます。

3枚におろしたニジマス
残った背骨の部分は捨ててもいいですが、スプーンで身をこそげとって食べたり、塩を振って焼くなどすれば無駄なく美味しく活用できます。捨ててもいいと書きましたがやっぱり捨てちゃだめ!
腹骨をすきとる
腹骨をすきとっていきます。

なるべく薄く腹骨をすきとる
包丁を持っていない手で腹骨を抑えつつ、指の下に刃を潜らせるイメージで切るときれいにすきとれます。

両方の身の腹骨がすきとれた
腹骨をすき取り終えました。
上の写真では最初の処理で取り切れていなかったうろこが黒く点々と身に付着してしまっています。見た目に汚いので拭き取っておきましょう。
小骨(上神経骨)を抜く
腹骨がとれたら身に残ってる骨はもうない…と思いきや、ニジマスには面倒な小骨が残っています。
指先で身をなぞると、中心部分よりちょっと背中寄りの位置に並ぶ小骨があるはず。魚の扱いに慣れている人なら、この魚はちょっと変な位置に血合い骨があるな?と気づくでしょう。それが頭から尾に近い位置までずらり。しかも斜めの角度で身に食い込んでる。
これは血合い骨ではなく、「上神経骨」と呼ばれるマス類を含む一部の魚に特有な小骨です。
青魚などと同じ「血合い骨」だと思って包丁で処理すると身に残ってしまいますので、指先で確かめながら一本ずつ骨抜きで抜いていきましょう。

骨抜きで一本ずつ抜いていく
100均の骨抜きでも精度のいいアタリもありますが、だいたいは挟む部分の噛み合わせが悪いので、調理器具メーカーのものをおすすめします。私はこれを使っています。
内臓が入っている範囲と同じ位置まで、つまり肛門の位置までずらっとこの骨が並んでいます。面倒ですが一本ずつ丁寧に抜いていきましょう。骨が生えている向きを確認してその方向に引っ張れば素直に抜けていくはずです。
皮を引く
骨が抜けたらもう一息。
大きなニジマスは皮が硬いので皮を引く必要があります。
皮を下にしてまな板に身を置き、尾から刃を入れていきます。身と皮の間の層に包丁の刃を入れると、刃が入るポイントがあるはずです。なるべく刃が薄い包丁を使えばやりやすいはずです。

皮を引く
皮を引っ張りながら身をはがしていきます。最初は途中で皮が切れたりして難しいと思いますが、慣れだと思います。
両身とも皮が引けました。

銀皮が残れば上出来です
身が白っぽく見えている部分は、皮下脂肪的なやつ。これが多ければ脂が乗ってる証拠です。というか、養殖魚は栄養価の高いエサを食べているので脂がのっているのがデフォルト。
お腹付近の銀色も旨味のもとなので、これがうまく残せると美味しいし、見た目的にも華やかになります。
切り分けて盛り付ける
さあ、面倒で難しい作業はもう終わりました。
あとは食べやすい大きさ、好みの大きさに切り分けていくだけです。

包丁の刃全体を使って好みの大きさ薄さに切り分ける
なるべく身の細胞をつぶさないよう、包丁の刃全体を使ってスーッ引くように切っていくのがコツ。そのために刃が長い刺身包丁があればベストです。三徳包丁でも刃が長いものがあればそれを使いましょう。砥石で研いで切れ味は確保しておきたいところ。
切り方ぐらいで違いが出るのかと思いますが、押しつぶすように切ったグズグズの刺身と丁寧に刃を引いて切った断面がきれいな刺身とでは明らかに味の差がでます。
切れたらお皿に盛り付けて完成。

盛り付けて完成
私は盛り付けの技術やセンスがないので、とりあえずこんな感じということでお茶を濁したいと思います。家で食べる分には美味しく食べられりゃいいんだ!
ではわさび醤油でお召し上がりください。

わさび醤油で召し上がれ!
上の写真、身の上の方にある白い脂肪の層が見えるでしょうか?脂がのっている証拠です。赤身のニジマスならたいていこのようになっています。
味は食べなれたあのサーモンの味…なんですが、脂がのりすぎてくどいこともなく、誰もが率直に美味しいと感じる味のはず。血抜きなどをしてその日のうちに下処理しておけば生臭さもありません。
自分でサーモンを釣って食べられるなんて
今思えばすごく乱暴でざっくりしたイメージですが、「サーモン」っていうと北海道だったりカナダだったりの河川で屈強なヘビータックルを使って釣り上げるものというイメージを持ってました。何日もかけてポイントを渡り歩き、熊の恐怖におびえながらの釣りみたいな。
もちろんそういうサーモンフィッシングもあります。
でも、普段食べなれているあの「サーモン」がこんなお手軽に釣れて、自分で刺身にして食べられるなんて、管釣りを始めるまで考えもしませんでした。しかも都会から一時間圏内の釣り場で釣れるなんて。なんでみんな教えてくれなかったんだ?
釣ったら食べる派のみなさん、オフシーズンは管釣りがおすすめです!