大阪湾内の各ポイントでタチウオが釣れはじめる時期には数ヶ月単位のずれがあります。
大阪湾でも南や西のほうであれば早いと夏ぐらいから、大阪湾の一番奥に位置する南芦屋浜や西宮ケーソンで釣れ始めるのが例年9月下旬から10月上旬ぐらい。そして年末年始前後を境にして途絶えるタチウオの釣果。
なぜ釣り場によって時期がずれるのか?どのようなルートで大阪湾を回遊しているのか?既存の資料をもとに、大阪湾におけるタチウオの回遊ルートを解説します。
タチウオの回遊ルートが書かれた資料
ケミホタルクラブ40号
タチウオ釣りに欠かせないのがパキッと折って発光させるケミカルライト。
集魚用の光として、また暗闇での目印として。夜間のタチウオ釣りにはなくてはならないアイテムです。タチウオ釣りをする人で知らない人はいないでしょう。
今では百円ショップを含めていろいろなメーカーから発売されていますが、中でもルミカのケミホタルがタチウオ釣りにおいてのルーツでありデファクトスタンダードです。どのメーカーの釣り用ケミカルライトも、サイズはケミホタルが基準。
そのルミカが発行した情報誌「ケミホタルクラブ40号」。ここにタチウオの回遊ルートを紐解く手掛かりが掲載されていました。ここに引用します。
春から秋の最盛期にかけての回遊ルート
内容を時系列でまとめるとこうなります。
例年は和歌山付近で最初にタチウオが釣れ始めますが、それは紀淡海峡を抜ける南周りの群れ。これはそのまま北上し、関西空港周辺の泉州地域では夏ぐらいにタチウオが釣れ始めます。
一方鳴門海峡を抜けた北回りの群れは明石海峡を通過し、例年お盆を過ぎたぐらいに神戸周辺の沖提などで釣れ始めます。
主に2系統の回遊ルートがある
大まかに分けると、タチウオは以下2つの群れとなって大阪湾に進入することになります。
便宜上、この記事中では紀淡海峡ルートの群れを南回りチーム、明石海峡ルートの群れを北回りチームと呼ぶことにしましょう。
古い資料も参考に
もう一点、大阪府立環境農林水産総合研究所のサイトにタチウオの回遊に関する資料があります。大阪府水産試験場の研究報告書ということで、きっちりと調査研究に裏付けされた内容のはずです。
リンク先のページにあるリンク「本文(PDF 634KB)」からダウンロードできる資料の6ページ目に詳しい解説があります。
大阪湾における数十年の変化と回遊
1978年の資料ということでおおよそ46年前の古い資料。その46年の間に、大阪湾では大きな変化がありました。
大規模な人工島であるポートアイランドや六甲アイランドの埋め立て、関西空港や神戸空港の開港など。大阪湾沿岸の地形は大きく変わりました。潮の流れにも確実に影響を与えているはずです。そのは魚の生態に多少なりとも影響を及ぼしたと考えるべきですが回遊ルートの大筋は変わってないはず。その前提で進めます。
この資料では紀淡海峡から北上する南回りチームの回遊について詳しい解説がありました。また、タチウオの食性に関する資料もあってなかなか興味深いので、お時間があれば目を通してみると知見が広がるかも。
諸説や持論等それぞれあるとは思いますが、ここではこれらの客観的な資料をスタンダードとします。これで回遊ルートのイメージができました。
タチウオの回遊ルートをまとめる
これまでの資料から得た情報をもとに、季節ごとのルートを図示します。
冬場も大阪湾の深場に居残りする群れがいるようですが、それは基本的に船からのみ狙える群れであり、今回は考慮しません。あくまでショア、岸から狙うタチウオをメインとします。明石海峡より西の播磨灘に出て行く群れもいるようですがそれもここでは対象外とします。
また、2020年から始まっている大不漁を経て、その年によって時期のずれや群れの密度に大きな差が出来る可能性があることも実体験として分かってきました。
以上のことから、これから書く内容に関してはあくまで参考程度にとどめてください。単純な線や矢印で回遊を表していますが、実際はこんなにシンプルなものではないのをご承知の上で。
紀伊水道沖で越冬
まず年間サイクルの起点を冬とします。
大阪湾岸では基本的にタチウオが釣れないとされる時期です。その時期のタチウオは紀伊水道沖で越冬中。産卵場所もこのあたりとされています(出典:大阪湾産タチウオの漁業生物学的研究)。黒潮の影響で水温が高くエサが豊富なのでしょう。
以降、オレンジ色で図示するのが明石海峡から進入する北回りチームの群れ、青色で図示するのが紀淡海峡から進入する南回りチームの群れとします。
初夏にそれぞれの海峡を通過する
初夏、つまり5月か6月ぐらい。
紀伊水道を北上するタチウオの群れは淡路島に分断されて鳴門海峡と紀淡海峡を通るルートに分かれます。この時期に紀北や淡路島南部付近で釣れるという話を聞きますね。これが大阪湾で最も早くタチウオが釣れるポイントになります。
夏になり大阪湾へ進入する
夏になると南回りチームが沿岸沿いに関西空港付近まで北上する一方で、淡路島の洲本や津名など東側沿岸を北上する分隊も。釣れ始めが早い時期だと、お盆あたりに泉州地域や淡路島の中部で連れ始めます。
やや遅れて北回りチームが明石海峡を抜けて神戸方面に姿を現します。これが夏休みシーズンに神戸周辺の沖提などで釣れ始めます。今となっては沖堤で釣りができず確認しようがありませんが。
この時期に京阪神で釣れるタチウオは50~60センチぐらいの小さなサイズが主流。サイズ感から「ベルトサイズ」と呼ばれたり「夏タチ」と呼ばれ数釣りができるとされていますが、その年によって釣果の差が大きく、ほとんど釣れないシーズンもあります。
タチウオフィーバーに湧く秋の大阪湾
秋には北回りチームが神戸沿岸を東へ進み、西側のポイントから順に釣れはじめます。一方で南回りチームが大阪湾を北上し、例年なら9月中旬あたりから大阪南港あたりでも釣れはじめます。
この時期は沖に近いポイントほど釣れる確率が高い傾向にあります。沖提が有利です。
どちらのチームが先に来るのか分かりませんが、最終的に南芦屋浜や西宮ケーソンあたりで釣れ始めるころには大阪湾全域にタチウオの群れが行きわたった状態。これがだいたい9月末から10月初めぐらいで、例年それほど誤差が無く同じ時期に釣れ始めます。
これからしばらく大阪湾奥に滞留して、あらゆる波止がタチウオ釣りフィーバーに湧きます。季節が進むにつれ、岸に近い湾奧や河口付近でも釣果があがります。このアゲアゲ状態は11月いっぱいぐらいまで続きます。
そしてまた紀伊水道へ
そして冬がおとずれ水温が下がっていきます。
季節が進むにつれ水温が高い深場に落ち、また紀伊水道に帰っていく。そのシーズンの水温にもよりますが、例年だと年末年始付近が大阪湾岸におけるタチウオ釣りの最終リミット。
暖冬で水温が高いままだと1月いっぱいまで釣れ続くこともありますが、これにて陸っぱりからのタチウオ釣りはいったん終了となります。
タチウオ釣り終了時期については、水温低下と絡めた考察をまとめましたのでこちらもご覧ください。
大阪湾のタチウオ回遊ルートまとめ
以上の内容と実体験を交えて、大阪湾の波止タチウオ回遊ルートを時系列でまとめました。特に湾奥とよばれる京阪神や南港にフォーカスしています。
- 8月沖提などで夏タチウオが釣れ始める
神戸沖提や武庫川一文字、明石海峡周辺、神戸周辺、大阪湾南部などで50~60センチ前後の小型タチウオが釣れ始める
- 9月大阪湾の西部沿岸と南部沿岸でタチウオが釣れ始める
西部の群れは明石海峡から次第に東進し、南部の群れは紀淡海峡から北上していく。そのルート上にあるポイントで順にタチウオが釣れ始める
- 9月下旬~10月初旬大阪湾最奧でタチウオが釣れ始める
南芦屋浜などの大阪湾最奥部でもタチウオが釣れ始める
- 10月~11月大阪湾岸全域でタチウオが釣れ続く
大阪湾の沿岸一帯でタチウオが釣れ続ける
- 12月タチウオの釣果が落ち始める
水温が一定水準まで落ちると次第にタチウオの釣果が減っていき、13度ぐらいを境にして姿を消す
後述しますが、2019年あたりからタチウオの釣果が不安定な状態が続いており、必ずしもこのような時系列にならない場合があります。そもそもほとんど接岸がない年も当たり前になりました。その点はご承知のうえで、だいたいこんな感じなんだなとご理解いただければ。
ここからは、それまでに比べて著しくタチウオの釣果が減った2020年の記録を書いていきます。
異例の大不漁となった2020年の記録
大阪湾における2020年の陸っぱりタチウオ。
この年は近年稀に見るタチウオ不漁の年となりました。少なくとも私がタチウオ釣りを始めた2014年以降最悪の年であり、個人的な釣果はまさかのゼロ。こういう年もあるということで記録しておきたいと思います。
今年はちょっとおかしいぞ?と気づき始めた10月下旬から時系列で書いた記録をそのまま掲載します。
なお、翌2021年も不漁といえる年だったのですが、例年よりかなり遅い10月後半ぐらいから武庫川一文字などの沖提で釣れ始め、密度はやや薄いながら湾奥にも群れが入ってきました。これは回復の兆しなのか一時的なものなのか?とにかく言えることは2020年よりはるかにましだったということ。
そして迎えた2022年は、前年に抱いたかすかな希望を木っ端みじんに打ち砕く最悪の釣果であったことを書き残しておきます…
今後大阪湾のタチウオはどうなるのか?数年は様子を見ないと分かりません。
サンマやイワシで知られていますが、青魚には魚種交代(交替)という現象があり、数年単位、数十年単位で魚種ごとの個体数に変化が現れます。ある魚種が少なくなったら違う魚種が増えたり。2006年あたりはマイワシが不漁で高級魚とされていたと記憶されている人も多いはず。
一般的にタチウオは青魚に含まれませんが、サバやサワラとは比較的近い種の魚ですし、知っての通り回遊魚です。成魚のエサはイワシなどの小型青魚が主体。必然的に魚種交代の影響を受けるはずです。特に主食ともいえるカタクチイワシとの関係は切り離して考えられないでしょう。
特定の魚種が釣れなくなると乱獲とか環境破壊とか埋立地のせいとかにしたくなります。確かにその要因は排除できません。また一方で減ったり増えたりというのも自然と捉えるなら、悲観的にならず待つしかないなと思います。
というわけでこれ以降は2020年当時に書いた内容を時系列で残します。
10月になっても釣れ始める気配が無い(2020/10/26追記)
”例年それほど誤差が無く同じ時期に釣れ始めます”と記事に書いていますが、少なくとも2020年は10月が終わろうとしている時期でも湾奧でその兆候がありません。全く釣れてないってわけでもないのですが、例年に比べると極端に魚影が薄い。
昨シーズン、2019年もタチウオが少なかったシーズンとされていますが、それとも比較にならないぐらいタチウオが釣れない。
曲がりなりにも大阪湾の波止タチウオを7シーズン経験してきましたが、こんな状況は今年が初めてです。どんな回遊魚であれ周期的な数の増減はあるはずなのでこんな年もあるのかなと思いますが、今後どうなるんでしょうか?これはこれで記録としてとどめておきたいところです。
ひとつのキーとなる水温ですが、真夏は高温だったものの9月以降ぐらいはほぼ平年並みで推移しており、特に異常値ということはありません。
データ出典:第五管区海上保安本部海洋情報部 神戸港の水温
大阪湾全体で魚が釣れてないかというとそんなことはなく、ハマチやサゴシなどの青物は例年以上に好調。タチウオのベイト、つまりエサとなるイワシ類も豊富な回遊が確認できています。なのになぜっていう。
最盛期なのに釣れない(2020/11/16追記)
どうしてしまったのでしょうか今年のタチウオ。
もう冬の足音が聞こえ始めた11月半ばになってもさっぱり釣れる気配がありません。聖地、武庫川一文字でレジェンド級の名人をもってしても1桁台の釣果がまれにある程度。
阪神間だと須磨一文字での釣果が目立つぐらいでその他はお通夜状態。
そのせいでしょうか?例年だとたいしてアクセスがない今お読みになっているこの記事、今年は異常にアクセスが伸びました。
例年にはない事態に気づき始めた大阪湾の釣り人が「大阪湾 タチウオ」などのキーワードで検索しまくった結果です。でもごめん、分からないんだ理由や先行きは。
しかし11月に入ると急激にアクセスが落ち始めています。もう今年のタチウオは諦めた、そんな人が増えてきているのでしょう。仕方ないですよね、この釣れなさっぷりでは。
かくいう私もほぼ諦めています。まさかタチウオの釣果ゼロで冬を迎えることになるとは。
もう諦めよう(2020/12/01追記)
というわけで状況は好転しないまま12月を迎えました。相変わらず私のタチウオ釣果はゼロです。
もう冬の到来です。
例年であれば数は減っていくものの湾奥ではまだまだ釣れる可能性がある時期であり、数釣りできないけどサイズには期待ができる時期。たとえ釣れずともアタリがゼロなんてことはまれ。
しかし今年の湾奥ではメタルスライムにエンカウントするよりずっと低い確率でタチウオが釣れるような状況。もう宝くじを当てるようなものです。
タチウオのメッカ、武庫川一文字でまとまって釣れるようなタイミングが数日あったようですが、夕まずめの2~3時間で数十匹を釣るような猛者がやっと2桁に到達するぐらいの釣れ具合。私のような素人がいったところで釣果があげられるはずもなく、実際2回ほどタチウオ目的で渡堤して釣果ゼロ。見渡せる範囲でもゼロ。
シーズンを通してみれば大阪湾といえど船では釣れていましたし、陸からでも紀伊水道に近い和歌山や明石海峡に近い須磨付近では釣れているという状況でした。そう、大阪湾にタチウオが居なかったわけではない。大阪湾の入り口と沖には確実にタチウオが居たのです。でも何故か岸に近づかなかった。接岸しなかった。
ここ数十年で初めての事態だと言う先人もいらっしゃるようですが、釣り人の「釣れ具合」の記憶や表現などあてになりません。それはみんな知ってるはずなので話半分で聞いておきたい。ただこの年の釣れなさは後世に伝えたい。よってここに記す。
総括するにはまだ早いですが今年はもう諦めよう。でも悲観せず来年に期待しよう。
回遊をイメージしながらシーズンを待つ楽しみを
以上、既存の資料を参考に大阪湾におけるタチウオの回遊ルートをまとめました。
近年は必ずしもこの通りにいかないということが当たり前になってきましたが、それまではだいたいこうだったということで参考になれば。
黒潮の接岸状況。海水温。タチウオのエサとなるカタクチイワシの回遊状況。たぶんそういったいくつかの要因を分析すれば、いつから釣れ始めるか、その年にタチウオが豊漁になるか不漁になるかある程度予測できるんでしょう。
しかしあいにく私にはそこまでの見識がありません。まあ誰にも予想できないからこそ楽しめるのかもしれません。