誰しも食べたことがあるアナゴ。あまり知られていませんが、実は血と粘液に毒を持っている魚です。
熱を通せば容易に毒性が消えるため、天ぷらや煮物を食べる分には全く気にする必要はありません。問題になるのは生きたアナゴや生のアナゴを扱う場合です。
どんな毒があり何に気を付ければいいのか?自分で釣って自分で刺身にして食べた経験を交えて解説します。
この記事は厚生労働省のウェブサイトに掲載されている「自然毒のリスクプロファイル:魚類:血清毒」の内容をもとに構成しています
アナゴの血と粘液にある毒
アナゴの血液には毒がある
アナゴの毒は血清毒
アナゴの血液にはウナギと同様の毒が含まれているとされています。
血清毒と呼ばれるタイプの毒で、新鮮な血液を大量に飲んだ場合、下痢、嘔吐、皮膚の発疹、チアノーゼ、無気力症、不整脈、衰弱、感覚異常、麻痺、呼吸困難などの食中毒症状を引き起こします。詳しくは厚生労働省の情報をご確認ください。
最悪死に至ることもあると厚生労働省のサイトに記載があります。字面だけみると見慣れない症状ばかりで怖い。
アナゴとウナギの毒性は変わらない
なぜかアナゴの毒はウナギの毒より弱いと言及されがちですが、厚生労働省の情報によれば毒性は同程度となっています。ウナギも意外と身近な釣りのターゲット。取り扱う際は念のためご注意ください。
血清のLD50(マウス):静脈投与ではウナギ0.30-0.74 ml/kg、マアナゴ0.37-0.74 ml/kg(両魚種の毒性は同程度で、血清1 mlで体重20 gのマウスを60-150匹殺すことができる)。経口投与では両魚種とも約15 ml/kg。
厚生労働省ウェブサイト 自然毒のリスクプロファイル:魚類:血清毒から引用
毒性が強いとはいえない
致死量は成人で1リットル
毒があるといっても致死量に至るにはかなり大量に摂取する必要があります。
ヒトの感受性がマウスと同じであると仮定した場合、体重60キロの成人で約1リットルが致死量とされています。マウスの経口投与で15ml/kgが致死量なので、0.015リットル×60キロ=0.9リットル≒1リットル。(出典:自然毒のリスクプロファイル:魚類:血清毒|厚生労働省)
現実的に摂取が難しい致死量
普段飲んでいる500ミリのペットボトルを思い浮かべれば致死量をイメージできます。アナゴの血でたっぷり満たされたそれを2本分。あるいはなみなみ注がれた中ジョッキ2杯分。
とんでもなく大量の血が必要です。新鮮なアナゴを大量に集めて丁寧に搾り取らないと確保できない量。一体何匹必要なのか想像もつかない。仮に集められたとしても飲み干せる気がしません。
毒だからといってすぐさま「死」を心配する必要はありません。
毒性は醤油と大差ない
塩を毒とした場合で比較する
私たちが日常的に摂取しているものでも量によっては毒となり得ます。
例えば塩を毒ととらえると、塩が含まれる醤油の致死量が体重50kgの成人で0.14~1.25リットル程度(出典:全日本民主医療機関連合会)。推定致死量にかなり幅がありますが、上の値を参考にした場合、アナゴの血と醤油の毒性は近いといえます。下の値だけを見たならアナゴの血より醤油のほうがよっぽど毒性が高い。小さなコップ一杯の醤油で死ぬ可能性があるわけです。
日本人ならほぼ毎日醤油を摂取しているわけで、アナゴの血に毒があるからといって過剰に恐れる必要はなさそうです。
不明な部分も多い
ただし中毒量は見積もりであり、実際にウナギアナゴで食中毒が起こった記録もないため、「中毒量は不明である」という記述が厚生労働省のサイトにあることにも注意が必要です。(出典:自然毒のリスクプロファイル:魚類:血清毒|厚生労働省)
毒があるのは確かなのですが作用機構も不明とされています。(出典:自然毒のリスクプロファイル:魚類:血清毒|厚生労働省)
全体的に「詳しくはよく分からないけど気をつけろ」というニュアンスが垣間見れます。本当は全く気にしないでいいほど毒性が低いかもしれませんし、あるいは想定より高い可能性もあります。
醤油程度の毒性だからと言って軽視していいわけではありません。
対策はしっかりしておこう
最低限の対策はしておくべき
口から摂取する以外にも、傷口や目の粘膜に入ると炎症を起こすとされています。
出来る範囲でそれを避けるに越したことはありません。先ほども書きましたが、バケツで血抜きする際も他の魚と分けておいたほうが安心。さばくときも汚れた手で目をこすったりしないほうがいいでしょう。
過剰に恐れる必要はなくとも、最低限の対策はしておくことをおすすめします。
粘液にも気をつけよう
血液ほどの強さはありませんが、表面の粘液にも毒があるとされています。なるべくフィッシュグリップでつかむのをオススメします。
クーラーボックスで保管する際も、念のためビニール袋などに入れて他の魚と分けたほうが無難です。
加熱すれば毒性は消える
通常は熱を加える調理だから心配無用
アナゴの毒はタンパク質なので60度で5分加熱すれば無害になります。
アナゴといえば天ぷらや煮物、蒲焼きなど100度以上の熱を数分間通す調理が普通なので、必然的に無害化されています。生で食べようとしない限り心配はいりません。
生で食べようとしない限り害はないのです。そう、生で食べようとしない限り。生で。
丁寧な処理をして刺身で食べてみた
自分で釣ったアナゴを刺身に
毒性の低さから考えて生で食べても問題ないはず
毒性が高くないと分かれば釣り人たるもの刺身で食べてみたいと思うわけです。みんなも同じだろう?
釣り場での扱い方や毒に対しての知識をつけたうえで、出来る限り毒を排除する処理をすれば生で食べてもまず問題ないはずです。
というわけで自分で釣ったアナゴを実際に生で食べてみました。
秋の大阪湾でタチウオ釣りの合間に釣れた60センチ級の大きなアナゴです。ポイントは堤防の足元で、釣り方はキビナゴをエサにしたズボ釣り。もちろんその場で締めてエラ切りで血抜きを施しました。
対策を万全にして自己責任で
毒性のある血や粘液を取り除く処理として、以下のような工程をふみました。
- 釣った直後に締める
- 釣り場ですぐに血抜きをする
- 血と同じく毒性があるとされる粘液を丁寧に取る
- ぬめりや血がついたまな板は処理過程ごとに洗う
- 3枚におろして皮を引いた後は身に残った血を水で洗う
- 身を氷水で締める
釣りで生きたアナゴを手に入れられるからこそ実現できる工程です。締めて売られているアナゴでは十分な血抜きができないので真似しないでください。
ぬめりの徹底的な除去は、酢でぬめりの成分を凝固させることで可能になります。
ここまでやっておけば毒性があるとされる血も粘液もほとんど残りません。
そもそもの毒性の低さから考えて、血抜きをしておけばここまで徹底的にやらずとも問題なく生で食べられるはず。しかしあくまで自己責任でお試しください。おすすめしたいのですがオススメはしません(分かってください)。
アナゴの刺身を実食
そのような処理をして家族4人で食べました。こちらがそのときの写真になります。
大人子どもを含んだ家族構成でしたが、誰も体調不良は起こさず無事に翌日を迎えました。毒に対する知識を得たうえで万全の対策をしたから当然といえば当然の結果といえます。
ソラニンという毒が含まれる可能性があるジャガイモだって、毒がある前提のもと芽や皮の処理をして注意しながら一般家庭で調理するわけで、それと大差ないのではというのが率直な感想です。
アナゴの刺身は美味いのか?
間違いなく美味しい
しかし面倒な処理をしてまで、ゼロとはいえないリスクをおかしてまでアナゴの刺身を食べる価値があるのか?これについては経験者としてはっきりこう言えます。
間違いなく価値アリです!
率直に言ってアナゴの刺身は美味い。サイズにもよりますが、60センチを超える個体なら脂乗りも良く、プリッとした筋肉質な身の食感と濃厚な脂が同時に楽しめます。寿司で食べ慣れたあのアナゴの風味もちゃんとある。青魚や普通の白身魚でこれは味わえません。アナゴだから味わえる他に替えがきかない味。
大きなアナゴが釣れたらしっかり処理したうえで試して欲しい…けどオススメはしません(お察しください)。
釣ったアナゴは適切に扱って美味しく食べよう
海でエサ釣りをしていればうっかりアナゴが釣れてしまうのはよくあることです。
自分で扱えないと思わず、持ち帰って食べてみませんか?さすがに刺身がおすすめとは言いませんが、アナゴは焼いたり煮たりいろいろな食べ方が出来ます。
生命力が強いですが締めるのはハサミ一本で大丈夫。
ぬめりさえ攻略できればさばくのも意外とかんたん。どこのご家庭にもある「とある調味料」を使ったアナゴのさばき方を記事にしました。
締めるときも調理するときも毒への対応は必要です。でも過剰に恐れる必要はありません。