魚料理って他の食材の料理と比べて最初のハードルがちょっと高いと思うのです。切り身ならまだしも丸のままの魚なんて、肉や野菜と比べて超えなければいけないハードルが高過ぎる。
魚は売ってるものを買った時点で生臭いし、釣ったにしてもそうだし。めちゃくちゃ種類が多くてさばき方を覚えるのが大変そうだし。専用の包丁とか道具が必要そうでそれも高そうだし。なんか色々大変そう。
魚料理に慣れた人なら「そんことないよ。やってみれば簡単だし面白いよ。」なんてことも軽々しく言えるでしょうが、未経験者ならスタートに立った時点で引き返したくなる要素が満載です。そりゃ魚離れも進むってもの。
でもそのスタートにあるちょっとしたハードルさえ超えることができたら本当に楽しい美味しい世界が待っています。実際それを経験した私が保証します。丸のままの魚をさばいて調理できるようになれば世界がちょっと広がる。魚売り場の解像度がぐんと上がる。
そんな魚料理の入り口にあるハードルを飛び越えるために最適な書籍が出ました。
魚好きが書いた魚への愛があふれる本
それがこちらの本、釣り専門の出版社である釣り人社から出た「一生幸せになれる料理147 お魚イラストレシピ大百科」です。
出版社から分かるように、釣りで釣れる魚を対象にした釣り人のためのレシピ本になっています。
著者はかつてマリンジャンボのデザインをしたひと
タイトルの通り、写真ではなくイラストがメインとなった魚料理のレシピ集です。著者は大垣友紀惠さんという方。
イラストやテキストはもちろんそうですが、料理写真もすべてご自身で撮られたものではないかと思われます。良くも悪くもスタジオでカメラマンが撮ったのではないだろうという生々しさがある。
この方を知るキーワードになるのが90年代前半にANAで運行されていた「マリンジャンボ」。その機体デザインを当時小学生の頃にされたのが大垣さん。
覚えていますか?マリンジャンボ。
私はというとすっかり記憶から抜け落ちていました。拠点のひとつとされていた伊丹空港近辺にずっと住んでいたのに。たぶん数キロ圏内の空で離着陸しているところを肉眼で見ているずなのに。
ではここでその機体を再確認してみましょう。

画像出典:contri from Yonezawa-Shi, Yamagata, Japan – All Nippon Airways Boeing 747-481(D) (JA8963/25647/991), CC 表示-継承 2.0,リンクによる
クジラをメインに海の生き物、魚が機体に描かれていています。魚好き、釣り好きが高じて今回の本を出版するに至ったとのことですが、当時から魚好きだったことがうかがえるデザインです。
あふれんばかりの魚愛がイラストに
そう、この「魚が好き」というのがこの本最大のポイント。私は一通り読み終えてそう感じました。
あふれんばかりの魚愛。魚LOVE。料理本なのでさばき方などのレシピがメインではあるのですが、そもそも著者は魚自体のデザインや美しさが好きなんだろう、魚のイラストを見てそう受け取りました。
たとえばこれ。アジのイラスト。

出典:「一生幸せになれる料理147 お魚イラストレシピ大百科」 大垣友紀惠/つり人社
アジの特徴といえばとげとげしたゼイゴやくりっとした目。イラストでもそこを強調して描かれることが多いはず。
それなのにアジのお腹にある虹色の輝き、レインボーカラーをまず最初に取り上げています。これはアジが生きた状態、釣った直後の状態を知らないと気づけないアジならではの美しさ。私もアジのこの部分に魅力を感じますし、魚売り場で確認する鮮度の目安としても必ず注目するところ。

その他の魚についても、釣り上げた直後を知っていないと表現できない魚の魅力がイラストに反映されています。
とにかく魚に対する愛。これがこの本を最初から最後まで貫く太い軸。
魚の美しさにも美味しさにリスペクトを感じますし、それを読者に伝えたいという思いが全ページからほとばしっています。
これは実際目を通せばわかるはず。同じ魚好きならば。
「お魚イラストレシピ大百科」のここがいい!
ではこの本の魅力をざっくりと紹介していきます。
船釣りで釣れる魚が主な対象魚だけど
タイトルにもある147という数字がレシピの数。大百科の名に偽りのないボリュームです。しかしその数に対しての魚種は以下の13種類(+αの外道)と少なめ。
- アジ
- タチウオ
- アマダイ
- イサキ
- イナダ
- アカイサキ
- クロダイ
- カワハギ
- ウマヅラハギ
- マダイ
- カサゴ
- イシモチ
- マハゼ
- その他外道にカテゴライズされる数種
取り上げられている魚や呼び名を見る限り、おそらくは関東の船釣りで釣れる魚種が中心。アマダイやアカイサキなど、船に乗らない陸っぱり派には馴染みのない魚も。
そんな中、なぜかアジとタチウオのレシピに多くのページが割かれており、実に本全体の約1/3を占めるのがこの2魚種のページ。特にタチウオのレシピが豊富。この魚種に対する著者の偏愛っぷりがうかがえます。
船釣りの対象魚が主ではありますが、これは堤防釣り派、そして関西の波止釣り派にも十分役立つといえるでしょう。

出典:「一生幸せになれる料理147 お魚イラストレシピ大百科」 大垣友紀惠/つり人社
イラストだから処理方法かりやすい
魚のさばき方を説明した本は数多くあれど、ほとんどは写真を使ってその過程が説明されています。もちろんそれはそれで分かりやすいのだけど、写真は情報量が多くて逆に分かりにくいこともあります。
その点、この本では魚の処理過程がとてもシンプルなイラストで表現されています。必要なところだけを描いて無駄な部分が省いてあるからすっと頭に入ってきて理解しやすい。

出典:「一生幸せになれる料理147 お魚イラストレシピ大百科」 大垣友紀惠/つり人社
シンプルとは書きましたが、一方で情報の密度がすごく高い。密度の高い情報シンプルに表現する。これはかんたんに見えてなかなかできないこと。ブログを書くとつい長文になってしまう私にはできません。
魚のさばき方などの処理方法も、なるべく簡単でわかりやすい方法が解説されていて、初めてでもとっつきやすい内容になっています。処理方法の選択肢も多く用意されている。これなら初めてでも自分にできそうという気持ちになるはず。

魚の料理本の中には「まずこれを用意しましょう。鋼の出刃包丁と刺身包丁、分厚い木のまな板、ウロコひき…」とか、そんなもん家にあるか!最初からハードル上げすぎでしょ?みたいなものが多くあります。それが悪いというわけではありませんが。
この本では普通のキッチンにたいがいあるであろう、普通の包丁やキッチンバサミでの処理方法が採用されいます。魚が手に入ればすぐにでも魚料理に挑戦できる。
閉じない綴じ方だから料理中も参考にできる
本の内容とは離れますが、本の造り自体にも工夫がされています。
最初に本を開いとき「これ不良品なのでは?」と思いました。語彙力が低下した表現で申し訳ないですが、本を開いても開いたままで閉じないんですよ!
こいつ何をわけわからないこと言ってるんだとお思いでしょうがこれをご覧ください。こういうことです。

出典:「一生幸せになれる料理147 お魚イラストレシピ大百科」 大垣友紀惠/つり人社
本を開くと背がしっかり折れて180度ぱかっと開いたままになるのです。おかげで任意のレシピを開いたままテーブルなどに置いて参照することができる。
レシピ本を開いたまま参考にしつつ料理をしていて、意図せず本が閉じてしまう経験は誰しもあるはず。手が濡れたり汚れたりしてるから本に触るのも面倒。ブックスタンドを使えばいいのは分かってるんだけど…。それが解消された綴じ方になっています。
恥ずかしながらこの本の綴じ方に初めて出会いました。おそらく何か名前がついている綴じ方だと思います。よければ教えてください。
多少価格が上がってもいいから、レシピ本はこの綴じ方を採用してほしい。
釣りの入り口にいる人のために
今読んでもらっている私のブログ。
その基本的なスタンスは「釣りの入り口にいる人の背中を押して釣りの世界へ入るサポートをする」ことです。そうすることで初心者に立ちはだかる釣りのハードルを下げるのが目的。海釣りと魚料理を初めて数年、もう初心者とは言い訳できない年数になりましたがこのスタンスは続けていきます。
僭越ながら、この本からも私と同じスタンスを感じました。釣りの世界に誘って、魚の美しさ面白さ、釣りの楽しみ、魚料理の美味しさ楽しさを共有したい。なるべく低いハードルで。そんな気持ち。
その道のプロが教える高度なテクニックなどのコンテンツは必要ですが、文化を継続するにはかんたんで分かりやすくとっつきやすいコンテンツも欠かせません。この本はその役割を果たす本です。
第二集の発売が待たれます。次はサバやイワシにも期待したい!