PR

海から離れた場所で海の匂いがする原因とは?

海から遠く離れた内陸部なのに、なぜか海の匂いを感じるときがありませんか?

私は子どものころから何度もその体験をしてきました。私が住んでいる場所は大阪府の北部、兵庫県との境界付近にあります。海からは直線距離で15kmほど離れており、子どもにとって海は遠いところでした。

そんな海から遠く離れた場所で「これって海の匂いでは?」という匂いを感じる瞬間が年に何度かあったのです。その時は決まって暑い時期の日没後数時間、感じるか感じないかぐらい弱く生ぬるい南風が吹く時でした。

スポンサーリンク

なぜこの場所で海の匂いが?

それはいつも夏の日没後だった

幼少の頃。

夏祭りの帰り、暗がりで自転車をこぎながらふと気づく海の匂い。生臭い磯の匂い。夜の町の風景と匂いがリンクして、数十年経った今でも記憶に残っています。

とはいえ「海から遠く離れたここで海の匂いなんかするわけないよなあ。たぶん工場の排気とかが混じりあった結果、偶然海っぽい匂いになるんだわ。」と適当にこじつけて納得してました。

事実、住まいから南の方角には大きな自動車工場、飛行場、高速道路、下水処理場、ペットフードの工場、パン工場、割と個性的な匂いを出す施設がいくつかあったので。それらが混じり合って偶然に海の匂いになるんだと。さして気にもとめていませんでした。

やはりあれは海の匂いだったのだ!

同じ体験をしている人がいた

ある夏、はてなブックマークで人気エントリー入りしていたこのまとめ記事を発見。

これは関東の話ですが、コメントを見ると関西でも同様の現象があるという報告が。

そうだ!これだ! 他の人も感じてたんだ!しかしこのまとめでは現象の報告のみ。その仕組みや原因たるものは言及されていません。果たして本当に海の匂いなのか?真相には辿り着けず。

説得力のある仮説がでてきた

続いてこの記事が人気エントリーに登場。

気象予報士の森田さんによって2013年に書かれた記事です。関東の内陸部で感じる「海の匂い」について仮説を立てられていました。

一部引用させていただきます。

ただ私は、この潮の香りには「ヒートアイランド」が関係しているのではとの直観を持っています。以下、簡単にその説明をさせていただきます。

一般に地上の風は、温度の低いところから温度の高いところに吹きます。

真夏、太平洋高気圧におおわれたときは、気圧傾度がゆるく風も弱くなります。こうした日は、昼間は陸地のほうが温度が高いので、温度の低い海から陸に向かって風が吹きます。これが「海風」です。

一方、夜になると陸の温度が急激に下がり、相対的に海の温度が陸地より高くなります。したがって陸から海へと、「陸風」が吹くことになります。

夏は昼と夜、「海風」と「陸風」が交代して吹き、夕方と朝は、風の弱い時間帯が現れます。これが「朝凪(あさなぎ)」「夕凪(ゆうなぎ)」です。

いま時代を、江戸の昔にタイムスリップさせれば、夏の夜は「陸風」が吹いているはずですから、潮の香りはしないことになります。

ところが、現代は陸地の温度が夜になっても下がらないため、本来なら陸風が吹くはずが、夜でも海風の侵入で潮の香りが運ばれているのではないでしょうか。

実に分かりやすい説明。

都会のヒートアイランド現象が原因だった

とても納得のいく仮説です。

温度の低いところから高いところに風が吹く。これは冷たい空気の方が気圧が高くなり暖かい空気が低くなるから、冷たい場所から暖かい場所に向かって風が吹くということ。

都会の夏の夜はこうなっているはず。

  • 気温が高い陸で上昇気流が発生し空気量が減るので気圧が低くなる
  • 気温が低い海で下降気流が発生し空気量が増えるので気圧が高くなる
  • その結果として海から陸へ風が吹く

私は釣り人、釣り場での経験を通してこれを体感しています。

釣り場で感じる風

夏の時期、まだ日も出ていない早朝から釣りをする機会がよくあります。釣りにおいて早朝というのは魚がよく釣れるタイミングであり、専門用語で「朝まずめ」と呼ばれています。

晴れた夏の日は、日の出前後から数時間のあいだほとんど風が吹きません。いわゆる凪の状態。そこから太陽が高くなってどんどん気温が上がるにつれ徐々に海から陸への風が吹き始めます。例えば南に面した釣り場が多い神戸方面だと、お昼前ぐらいから南西の風が吹くことが多いですね。

さらに時間が経過して午後には強風になっていることもあります。重量が軽い仕掛けだと投入しづらく、また魚からのアタリも分かりづらくなるので、その強風が釣りのやめ時のきっかけともなります。

その風は日没が近くなると次第に弱まり、朝と同じように凪の状態が再び訪れます。

海と地上の温度差が原因

海水温は1ヵ月など長いスパンで見ればゆるやかな変化がありますが、通常の天候なら1日を通してほとんど変化がありません。夏だとだいたい20度台後半で落ち着いています。

対して地上の温度は一日の変化が大きい。

太陽光で地面が熱せられることで、午後のピーク時だと30度台後半になります。コンクリートやアスファルトの上だともっと上がるでしょう。海水温と比べるとその差はおおよそ10度以上。これは相当な温度差です。

しかもコンクリートやアスファルトは日が沈んでもなかなか冷えないので夜になっても周囲の気温が高いまま。これがいわゆるヒートアイランド現象。

海水の温度とヒートアイランド現象による気温との温度差。それによって吹く風。これが海から内陸に海の匂いを運ぶ要因ではないかというわけです。

もちろんヒートアイランド現象は決して好ましい現象ではありません。しかし高度経済成長期以降の1970年代後半に生まれた私にとって、当たり前にあった夏のひとコマです。

SNSができたことで共有できるようになった現象

私だけではなく、昔から「今日は海っぽい匂いがするなあ?」と感じていた人は多いことでしょう。その感覚は共有されること無く、各個人が心の中にしまったままだったはずです。なにせ些細なことで特に害もありませんから、広く問題となることはなかったでしょう。

SNSが発達したことでリアルタイムにこの現象が共有され、その原因らしきものにまでたどり着けたのは面白いこと。インターネットがあってよかった。

海がない場所で海の匂いを感じるロマン

子供の頃から長年感じていた海っぽい匂いが、どうやら本当に海の匂いらしいことが分かりました。

海からはるばると運ばれてきた潮風を、海から遠く離れた土地で感じる。ロマンを感じるじゃないですか。

海15kmってさして遠くないじゃないと思うかもしれませんが、子供の感覚にしたら自力で行くには途方も無い距離です。誰がなんと言おうとロマンですよこれは。

蒸し暑い夜に海の匂いを感じたら、遠い遠い海に思いをはせようと思います。自宅から一番近い、尼崎や西宮の淀んだ汚い海を思い出しながら。

(臭そう…)

【余談】天変地異の前触れとかじゃないぞ

この記事は2015年に書いたものです。

それ以来、毎年暑い時期になると「海のにおい」というキーワードで瞬間的にたくさんの人がアクセスするタイミングが訪れます。やはり日没後の数時間に集中して。

こういった「いつもと違う自然現象」が起こると、地震や天変地異の前触れだとか騒ぎ出す人が一定数います。はたまたアメリカが開発したHAAP(そっち系の人が人工地震兵器としてるやつ)がどうのこうのとか、原発がどうだとか。トンデモ説を持ち出してくる。

たまたま見上げた空に変わった雲が出てるから「地震雲だ!南海トラフの前兆だ!」とか、Twitterで検索すると毎日のように誰かが呟いています。

そんな人に聞きたい。

普段から空を見上げているか?海や川を覗いていているか?自然を感じているか?と。自然なんて常に変化するものです。一定では無い。毎年同じ時期に同じことが起こるかといえば全然そんなことはない。

釣りをしているとよく分かります。

去年は山ほど釣れたアジが今年は少ないしサイズも小さいとか、今年はタチウオがよく釣れるとか。毎年状況が違うのは至極当たり前のこと。人間だって、確固たる原因がなくともしんどい日があれば調子がいい日もあるじゃないですか。

普段から自然を感じていれば、変化なんて当たり前のことだと分かるし、天変地異への不安も減ります。たまには空を見上げたり、季節の空気を感じたりしませんか?

最近やたらと「異常気象」という言葉が多用されるのでちょっと気にかかってます。

以上、余談でした。