「エサ取り」「外道」「雑魚」と聞いて思い浮かべる魚は何でしょうか?
小イワシ、小サバ、サッパ、ボラ、バリコ(アイゴ)、フグなんかが代表格。そんな中でも比較的潮通しのいい水が綺麗な釣り場でよく釣れるエサ取りがスズメダイ。低水温にも強いようでシーズンの終盤まで釣れ続けるし、シーズン開始前にもいち早く釣れはじめます。
他のエサ取りと同じく、スズメダイを持って帰って食べる人はほとんどいません。基本は釣ったそばからリリースされる悲しい運命を背負った魚です。
でもちょっと待ってください!
スズメダイって実はとても美味しいんです。特定の時期に釣ったスズメダイなら特に。食べ方が分からない?では少々お付き合いください。
なぜスズメダイは捨てられる魚なのか?
地方名「オセンゴロシ」
地方によってはスズメダイのことを「オセンゴロシ」という名前で呼ぶことがあります。なんだか物騒ですが、スズメダイの特徴を表した名前といえます。
オセンゴロシの由来
「昔々のこと。紀州のとある村にお仙というおなごがおったそうな。ある日お腹をすかせたお仙は魚を釣って食べたのじゃが、かわいそうなことにその魚の骨が喉に刺さり死んでしまった。それからというものその魚は”お仙殺し”と呼ばるようになり、村人にたいそう嫌われたそうな。」(独自脚色あり)
スズメダイについてこのような伝承が和歌山地方にあり、関西の釣り人は今でもスズメダイのことを「オセン」と呼ぶ人がいます。
その理由はともかく何百年も名前が残るなんてすげえぜお仙ちゃん。そしていつの間にか自分を殺した憎っくきスズメダイのほうがオセンと呼ばれているなんて皮肉だぜお仙ちゃん。
魚の骨はあなどれない
ちなみにイサキにも同じような理由で「鍛冶屋殺し」なんて異名があり、こちらも和歌山発祥らしい。和歌山コワイ。
魚の骨が喉に刺さったぐらいで死ぬわけあるかよとも思いますが、運が悪いと首を切開して手術になることすらあります。昔ならどうしようもなかったこともあるでしょう。
不人気の理由は骨が硬いから
小アジやイワシのような調理では食べにくい
このエピーソードから分かるようにスズメダイは骨が硬いというわけです。
何らかの形でスズメダイを食べた人は共感できるはず。確かに小さなサイズの割には骨が硬い。骨もさることながらヒレも硬い。ついでに言うならウロコも硬い。身も締まってるしアジやイワシなどの青魚と比べたら全体的にカッチカチな魚です。
サビキで釣れるイワシやアジと一緒に丸揚げにしたけど、スズメダイは骨が硬かったという感想もよく目にします。そりゃ硬いと思います。小さなイワシやアジだと油で揚げたら骨ごとサクサク食べられますが、スズメダイだとそうはいきません。
熱帯魚っぽい見た目も美味しくなさそう
あとは見た目や色が熱帯魚っぽいため、先入観で「美味しくなさそう」と思い込まれている可能性も高い。スズメダイの仲間って色が綺麗なものが多くて水族館の定番ですしね。
調理方法が確立されている地方もある
福岡名物「あぶってかも」
そんなスズメダイですが、地方によっては郷土料理として食べられている例があります。
内蔵もウロコもついたまま塩焼きにする
もっとも有名なのは福岡の「あぶってかも」という料理。内臓もウロコも処理していないスズメダイを丸ごと塩焼きにして食べるそうです。ワイルドだな福岡。
大阪では韓国系の料理として
大阪でも知られざるメニュー
調べたところ、もう一箇所スズメダイが食べられているらしい地方が大阪。「いやいや、ずっと大阪府民だけど食べたことないよ?」という人がほとんどだと思います。大阪にずっと住んでいる私もそうです。
どうやら韓国系の方が食べるそうで、大阪といえど生野区あたりだけの限られた狭い食文化じゃないかと思われます。鶴橋あたりの本格的なお店に行けばメニューにあるのかもしれません。
この他の地域には流通すらしていないようです。確かに店頭や市場で売ってるのは見たことがない。
時期さえ合えば脂がのっていて美味しい魚
春から初夏の旬は脂のりが最高
夏以降は味が落ちる可能性がある
何らかの料理法でスズメダイを食べた経験がある人の中には「不味い」という感想を持った人がいるかもしれません。でもちょっと思い出してみてください。それを食べたのは夏以降じゃなかったですか?
スズメダイは明確に旬があってそれは春から初夏。夏に産卵をするので、春から初夏は産卵をひかえて体に脂肪を蓄える時期です。どの魚もだいたいそうですが、産卵前の魚は脂がのっていて美味い。逆に産卵後はげっそり痩せて不味い。スズメダイも例外ではありません。
ゴールデンウィークの時期は美味い
ゴールデンウィークあたりに釣り上げたスズメダイを捌こうとすると、脂で手がすべって扱いづらく感じるほど。地方によって産卵時期と旬には差があると思いますが、少なくとも神戸周辺ではそうです。先ほど紹介した福岡の「あぶってかも」も、脂が多いスズメダイを焼いて自身の脂で揚がったような状態になるから食べやすいらしい。
ゴールデンウィークから梅雨ぐらいまでの初夏。
スズメダイを食べるならこの時期です。むしろこの時期にスズメダイが釣れたなら1回食べてみろ!だまされたと思って。
人気釣り場のスズメダイは肥えてて美味しい説
今まで私がスズメダイを釣ったことのある釣り場は、アジュール舞子のワンドと温泉裏、平磯海釣り公園、淡路島の翼港。いずれの釣り場で釣ったスズメダイも、初夏と冬は脂がのって美味しかったし臭みもなかったです。
豊富なアミエビで肥えてるのでは
これらの釣り場に共通するのは、ファミリーに人気の釣り場だということ。
- ファミリーに人気ということはサビキ釣りをする人が多い
- アミエビがじゃんじゃん撒かれる
- スズメダイがそれを食べる
- スズメダイはどちらかというと居付き型の魚なので継続してアミエビを食べまくる
- どんどんスズメダイが肥える
- 美味い!
ということになっているのではと妄想しています。
タイと名がつくが鯛ではない
スズメダイ。漢字で書くとそのまま雀鯛です。
由来はおそらく群れでエサを食べる様子から
由来は定かじゃないですが、たぶん撒き餌をしたらスズメのごとく群れが集まって餌をついばむから「雀」の名がついたんじゃないでしょうか。
そして「鯛」。
なるほどあの魚の中の魚ともいえる真鯛の仲間なのかと勘違いするかもしれませんが、縁もゆかりもないまったく違う種類です。なんとなく形が鯛に似てるから「~ダイ」と呼ばれている魚は意外と多く、スズメダイもそのひとつ。だから鯛に似た味かといえばそんなことはありません。
実際にスズメダイを食べてみよう
というわけでスズメダイを食べてみましょう。
「ゴールデンウィークあたりにイワシを釣ろうとサビキをしたけど時期が早くてスズメダイしか釣れなかった」というケースがよくあると思うので、そんな人を想定しています。夏以降に釣れたスズメダイは知りませんし責任持ちません。
ではどうやって食べるのか?
スズメダイのレシピはほとんどない
丸揚げや南蛮漬けには向いていない
20年ぶりに釣りを再開した2014年当初。私もスズメダイをどう扱えばいいかさっぱり分からなかったのでネットで検索しました。しかしこれというレシピは見つからず。
「サビキで釣れた他の魚と一緒に唐揚げにして南蛮漬けを作った」みたいな記述はよく出てくるのですが感想はイマイチ。
ネットでは丸揚げや南蛮漬けにしてみたという食レポが散見されますが、ちゃんとヒレや骨を取り除く処理しないと揚げ物にはむかないと思います。高温の油をもってしても硬いヒレと骨は厄介なもの。
韓国料理風にやってみよう
韓国料理「チャリフェ」風に
先に「大阪の韓国系の人が食べる」と書きましたが、それにならって韓国料理風に調理したいと思います。最終的にスズメダイを生の状態で食べる料理です。
すでに福岡では「あぶってかも」として確立されているんだから焼いたほうが確実では?と思うかもしれません。
でも我が家はあまり焼き魚を好まないので、生で食べる方法はないかと調べ韓国料理に生のスズメダイを使ったメニューががあることを知りました。料理名を「チャリフェ」というそうです。
しかしこれといった詳しいレシピは見つけられませんでした。ですのでこれから紹介するレシピは私がネットで集めた断片的な情報を組み合わせてできたレシピです。間違っているところがあるかもしれません。それを前提にしてご参考に。
「スズメダイのチャリフェ」のレシピ
必要な材料
チャリフェを大まかに言うと生のスズメダイを韓国唐辛子酢味噌で和える料理です。韓国唐辛子酢味噌は別名「チョ・コチュジャン」というそうです。
韓国唐辛子酢味噌の材料と作り方は以下の通り。
韓国唐辛子酢味噌の材料
- コチュジャン…大さじ2
- 砂糖…大さじ1
- しょうゆ…小さじ1
- 酢…大さじ1
- すりゴマ…大さじ2
- ごま油…小さじ2
韓国唐辛子酢味噌の作り方
- コチュジャンに砂糖を加える
- しょうゆを加える
- 酢を加える
- すりゴマを加える
- コクをつけるためにごま油を加えて完成
辛いのが苦手な人はコチュジャンの量を加減するといいでしょう。上の材料以外に必要なのはスズメダイのみですが、付け合わせ的にキュウリや菜っ葉的なものがあればなお良し。
続いてスズメダイ本体を処理していきましょう。
【調理手順1】スズメダイの下処理
キッチンバサミでヒレを処理
まずヒレをキッチンバサミで切り取ります。
骨が硬けりゃヒレも硬いのがスズメダイ。特に背ビレと腹ビレが鋭利なので、調理中、手に刺しちゃわないよう、最初にやっておくといいです。
ウロコを処理
次にウロコを丁寧に落としてください。ウロコ取りか小さめの包丁を使うといいでしょう。
最終的に皮付きのまま生で食べるので、ウロコがついていると食感が悪くなります。胸ビレのあたりのウロコは後で身ごと取り除くので適当で構いません。
頭を落とす処理
続いて頭を落とします。ここからは包丁を使うほうがいいでしょう。
腹骨を処理
内臓周りの腹骨も硬いので思い切ってその部分も皮ごと除去しちゃいましょう。腹腔の構造上、アジみたいに腹骨だけきれいにすき切るというのはなかなか難しいです。
切り落とす部分を図解
ということで切り落とす部分を図示するとこうなります。
残ったのはわずかな身だけ。なんという歩留まりの悪さでしょうか。そもそもスズメダイは小さいので、取れる身はほんとにわずかです。この歩留まりの悪さも敬遠される理由のひとつでしょう。
処理して冷やせば調理は翌日以降でも
釣れたその日のうちにここまで処理して冷蔵庫に入れておけば、調理は翌日以降でも大丈夫。
【調理手順2】身を背ごしにする
3枚におろす必要はない
さて次は3枚におろす…必要はありません。皮を剥く…必要もありません。
骨ごと身を薄切りにする
今回は背ごしにします。背ごしというのは言い換えれば薄いぶつ切りです。皮と中骨ごと身をぶつ切りにしていきましょう。
厚さは2~3mmというところで中骨ごと薄く輪切りにする感じです。こんな感じ。
中骨ごとジャキッ、ジャキッと切ってください。
骨の風味も楽しむ
え?中骨は食べるときどうするのかって?食べるんですそのまま。
意外と中骨は柔らかくて、歯で噛めばサクッとつぶれます。ここにも旨みがあるので噛みしめてください。皮も同様です。とはいえやはり骨は骨なので子供はちょっと苦手なレシピかもしれません。辛いし。
【番外編】大きいスズメダイは皮を炙って刺し身に
ここでちょっと寄り道。
小魚の中では抜群に刺身が美味い魚
15cmほどの個体になるとさすがに中骨が固くそのまま食べるのはきついので、3枚におろして刺身で食べるのがオススメです。
取れる身は僅かですが、嘘偽り無く、防波堤から手軽に釣れる魚の中ではかなり美味い部類の刺身だと思います。バーナーがあるなら皮つきで表面を炙るのが良し。皮が美味い魚ですよ。
バーナーで炙るとこんな風に皮が縮んでじわっと脂が浮き出てきます。
時期さえあえば小魚とは思えないほどの脂のりで驚くと思います。ここまで脂がのってる小魚はなかなか思いつかない。ハタハタぐらいかな?脂のりがいいということはつまり味も濃厚だということ。
このままわさび醤油で食べちゃってください!醤油の表面に脂が浮いてくるのが分かると思います。
バーナーはマストアイテム
なおバーナーはこの新富士バーナーがコストパフォーマンス抜群でおすすめです。
百均でも手に入る市販のカセットコンロ用ガスボンベが使えるのでお手軽。バーナーがあれば魚以外でも料理の幅が広がりますし、バーベキューの火起こしなんかにも使えて便利です。Amazonなんかでよくみる、よく分からないメーカーのバーナーは信用できないのでおすすめしません。
ではふたたびチェリフェの調理に戻りましょう。
【調理手順3】氷水で身を締める
背ごしにした身をキンキンに冷えた氷水で締めます。
氷水で余計な脂をおとす
ザルにいれて氷水につけるといいでしょう。身が締まって断面が白くなります。締める時間は1分ほどあれば十分だと思います。
このとき、旬のスズメダイであれば白く固まった脂が浮いてきます。こんな小さい身にこれほど脂があったのかとびっくりするほど。この工程は他のサイトにあったレシピの見よう見まねで意味も分からずやったんですが、余分な脂や臭み落とす意味があるのだと思います。残った氷水は結構濁ってますし。
水分はしっかり除去する
氷水から上げた身はザルにあげてからキッチンペーパーに包んで絞るなどして、しっかり水分を取り除いてください。
【調理手順4】韓国唐辛子酢味噌を作って和える
材料を和える
先に挙げていた韓国唐辛子酢味噌の材料をまぜて、スズメダイの背ごしと和えます。あればキュウリの千切りなども混ぜましょう。 ダイコンや大葉でもいいかも。
できあがり
これで完成。
寝かせるとさらに美味い
酢の作用である程度は骨が柔らかくなるはずなので冷蔵庫で寝かせるとより美味しく食べられるはずです。冷たい料理なのでガラス食器に入れると雰囲気がでます。
でもちょっとコチュジャン入れ過ぎたな…赤いな。この辺はお好みで調整してください。
箸休めに最高なおかず
メインの料理という立ち位置にはなれないかもしれませんが、箸休めにちょうどいいおかずです。スズメダイってこんなに旨みと脂がある魚だったのかと驚くかもしれません。白ご飯にも合います。
しっかり中骨を噛み締めて食べましょう。骨せんべいを食べれば分かるように魚の骨は本来旨みがあって美味しいものなのです。
とはいえやはり骨が硬い魚には違いないので、中骨以外の小骨が残っているようだったらそれは丁寧に除去してください。「令和のお仙」にならないために。